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事業提案制度のピッチの場で経営はどう振る舞うべきか?

2023.04.26

皆さん、こんにちは。michinaruの横山です。

本日も、成熟企業の新規事業創造にまつわるお困りごとを抱える皆様のまるで隣に座ってお喋りするように、課題を紐解くヒントや糸口を一緒に探りあてるためのコラム、「michinaru横山のお話があります」をお届けします。

今回は、「事業提案制度のピッチの場で経営はどう振る舞うべきか?」と題してお届けします。

いよいよ今年度の新規事業推進の取り組みがスタートし、社員に参加を呼び掛ける事業提案制度や事業アイデア創出プログラムの告知真っ只中の企業も多いのではないでしょうか。

※先週、手挙げ制のプログラムに参加希望が集まるだろうかと不安がある方向けのコラムを書きましたので未読の方はこちらもご覧ください

何とか無事に各施策を走らせ始めたころ、仕掛け人の皆さんが同時に持っておかねばと思うのが、それらが最高の終わり方をするための策をあらかじめ考えておく逆算思考でしょう。

1年間、社員を巻き込んで行ってきた事業アイデア創出プログラムや提案制度が翌年度以降に繋がるものになるかどうかは事業アイデアを経営陣にぶつけるピッチコンテストの場にかかっているといっても過言ではありません。参加者にとっては数か月の集大成の場であり、組織的視点で見るとボトムアップとトップダウンが交わる瞬間でもあり、最も社内で注目が注がれるタイミングでもありますね。

今日はこの、「ピッチコンテストにおいて経営はどう振る舞うべきか?」についてお話ししたいと思います。1年のゴールから逆算して社内の仕込みをしたいあなたのもとに、ドアノック。

\「トントン!お話しがあります!」/

早速お話しさせてください。

こんなことを言うと身も蓋もないようで恐縮なのですが、新規事業の大前提として、やってみないと分からない、という特性があります。そのため、ピッチの場で経営がすべきことは、自社の未来を賭けて「君に任せた」と珠玉の一案を選ぶのではなく、可能性のありそうな事業プランを嗅ぎ分けそのアイデアの持ち主たちに次へ進む動機付けを行うことだと言えるでしょう。

動機付けは褒めることではありません。事業アイデアを持ち上げるだけでは「新規事業ごっこ」に終始してしまい、真の動機付けにはなりえません。大切なことは、自社にとって経営としてさらに探求してほしい事業アイデアの可能性を掘り下げ、前に進むために必要なものを起案者たちと明確にすることです。そのために、共有しておきたいピッチの場に対する認識と経営者の役割について書いてみます。

①ピッチは本気を問う場である

まず、「ピッチとは本気を問う場」であると認識を揃えておいてほしいと思います。先ほど書いた通り、新規事業は、やってみないことにはその良し悪しは分かりません。今日高い評価を受けても明日には全くノーマークだったプレイヤーがブレイクするかもしれませんし、話しがついたはずだった協業先が白紙に戻してほしいと言い出すかもしれません。その逆に、資料的にはパッとしないアイデアでもその分野へのモチベーションが異常なほど高い場合、翌月には見違えるようにアイデアが磨かれることも度々起こります。

そのために必要不可欠なものは、起案者の本気です。事業創造に長けた会社の経営陣はアイデアの新規性や将来性よりも、起案者の本気を見抜くために時間を使います。なぜこのアイデアに行き着いたのか、何に対して熱意を感じているのか、どこまで考え抜いたのか、起案者のこの事業に賭ける想いを図り取れるように問いかけることは何においても重要です。なお、彼彼女らに本気を問うからには、こちらも経営としての本気が試されていることもあわせてお伝えさせてください。

②ピッチはアイデアを磨く場である

次に、「ピッチはアイデアを磨く場」であるという認識をその場にいる全員が持っているか否かは非常に大きな違いを生みます。ピッチは完成されたアイデアを起案者が披露し、それに対して経営のジャッジメントを一方的に下す場ではありません。前提に述べたように新規事業はやってみないとアイデアのよしあしは本質的には分からないのです。

だからこそ、ピッチの場ですべきことは一通り考え尽くしてきた起案者の思考をさらに掘り下げ、プランを磨くとっかかりを残すことです。「本当に困っている人はどんな人なのか」「お金を出してでも買いたいと思うのはどんなシーンなのか」「どのようにしたら私たちにしか提供できない価値に昇華できると考えているか」「今後の展望は」、こうした事業の本質を問う質問がアイデアを磨き、ピッチ以降の起案者の行動を促します。検証ポイントが明確になっていれば、正式なGoが出ていなくともここまで取り組んできた起案者なら必ず翌日ペルソナにアポを取って検証に動くはずです。この楔を彼彼女たちに残すことこそがピッチにおける経営の役割だと捉えることは合理的ではないでしょうか。

③ピッチは経営のトレーニングの場である

最後に持っておいてほしい認識は「ピッチは経営のトレーニングの場」であるということです。こうした言い方は上から目線に聞こえそうでザワザワするのですが、ピッチにおいて求められる意思決定は、既存事業の意思決定とは性質が異なります。「情報と行動のパラドックス」の理論(図参照)で示されるように、不確実性を恐れるがあまり情報が十分に揃うまで意思決定を避けていては市場を取ることはできません。情報が少なく視界不良の中でも見切り発車的アクションを積み重ねる会社が、新規事業の果実を実らせていくのです。

そうした中、確実性を重視する意思決定を積み重ねてきた現経営陣からすると、不確実性を一定以上受け入れながら前に進めていく新規事業的意思決定は「反利き手」を鍛える絶好の機会だと捉えられるでしょう。十分な時間をかけて確実に成功を確信できる状態まで「待つ」のではなく、限られた判断材料の中で「決める」力を磨くしかないのです。面白そうだ、これに張りたい、彼彼女に賭けてみたい、といった主観的・直感的な決める力や、合議に委ねない経営陣の一人として自ら責任を引き受けるリーダーシップが問われるでしょう。こうして毎年毎年ピッチにおける真剣勝負を繰り返すことで、愛と胆力をもって起案者に踏み込んだ質問を重ね、伴走的に支援しようとする経営者の変貌をたくさん目にします。聖域にしておくのはもったいないですね。

あ、もうこんな時間。随分長居してしまいました。

「事業提案制度のピッチの場で経営はどう振る舞うべきか?」、いかがだったでしょうか。せっかく取り組むからこそ、1年のゴールから逆算して社内の仕込みをしたいあなたにひとつでもふたつでもヒントになれば、と思いながら書きました。ピッチの場に限らず、新規事業創造において聖域になりがちな経営層を良い意味できちんと揺らがしていくことは非常に重要だと感じています。まさに今切実な課題として向き合っている方がいらしたら遠慮なくご相談ください。お力になれたらと思います。

皆さんの感想をお聞かせいただければ嬉しいです。

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