新事業への挑戦を促すリーダーの語ること
こんにちは。michinaruの菊池です。
新事業が組織の中で市民権を得られない理由に、自分たちにその事業に取り組む理由(WHY)がない、もしくはその取り組みに魅力を感じない、ということがあります。
「我が社はなぜ新しい挑戦をするのか」
これをどんなメッセージに変えてメンバーに伝えるのかは、トップの大切な仕事。
ここではアメリカ35代大統領であるジョン・F・ケネディが語った有名なアポロ計画に関する1961年のスピーチを取り上げたいと思います。
「アメリカは10年以内に月面に人類を着陸させて、安全に帰還させる」
彼はスピーチの中でこのようなメッセージを国民に伝えたと言われています。
そして、このスピーチの中で語られた「ムーンショット」というキーワードはアメリカ発展の合い言葉のように使われました。
このメッセージがなぜ優れているのか。なぜ、人の心を動かし、成功に導いたのか。ポイントを3つに絞ってお伝えします。
1.危機感より高揚感を与える
トップが新しい事業への取り組みの重要性を社員にメッセージするときに見られるのが危機感の共有です。
「既存事業の市場は縮小していく。だから、新たな商品を世に乗り出さないと生き残りれない!」
といったメッセージです。
業績が踊り場にさしかかり、トップにこの先の不安が見えると、のんびしているように見える社員にその危機を共有したくなります。
しかし、人間はこの先に危機があると分かっていても、できるだけいつもと同じようにしていたい、という『正常時バイアス』が働き、実際に行動に移せる人は少ないものです。
また、人間は未来を考えることが苦手です。
まだ起こっていないことや、経験していないこと、目の前に迫っていない危機をリアルに感じることは難しいものです。
むしろ、この危機メッセージを日々送り続けると、「でも昨日と今日の景色も変わっていないから、明日もきっと大丈夫だよ。」と、逆に響かなくなってしまいます。
ケネディのメッセージの背景には、ロシアとのロケット開発に後れを取っているという危機感はあったはずですが、「月面に人類を着陸させる」という姿は実に夢に溢れ、私たちをワクワクさせてくれます。
そのメッセージを聞き手が受け取ったとき、そこに高揚感が生まれるか、が大切なポイントです。
2.実現期限を設ける
ケネディはこのスピーチで具体的な期限を設けました。
ちょうど10年でこの構想を実現する、と。
優れているのは、期限を明確に示したことと、その期間がさほど遠くない未来だったことです。
聞いている多くの聴衆にとって、10年先の未来はまだ自分が生きている未来です。
「自分も存在する未来に実現することか」とイメージできることで、宇宙開発という普段の私たちの生活には何の影響もない事業に興味が沸きます。
10年なら、自分も勉強してその構想の実現に加わりたいと思った人もいたかもしれません。
もし仮に彼のスピーチが「いつか月に行けるように宇宙開発を頑張ろう」で終わっていたら、ここまで国民は熱狂しなかったでしょう。
自分には関係のない絵空事だと捉えられます。
この10年という実現期限を儲けたことで、聞き手の自分事化に成功したこと、そしてトップの本気を感じられたのだと思います。
3.同じ絵を見せる
「月面に人類を着陸させて、安全に帰還させる」というゴールは、具体的で、どうすれば成功なのか絵で浮かびます。
これが「10年後までに宇宙事業を成功させる」と言っていたら、おそらくこの構想は実現しなかったでしょう。
また成功イメージの明確化は取り組むべき課題の明確化にも繋がります。
「月にロケットで近づく」、でなく「人が着陸する」がゴールですから、開発の必要な技術や足りていないリソースもはっきりしたはずです。
成功イメージが抽象的であればあるほど、課題がぼんやりして、何に取り組むべきかが見えなくなります。
そして何よりも、写真のような一枚の絵を、実現する前から全員と共有できたことが何よりも効果的だったことでしょう。
いわゆる「同じ絵を見ている」状態が創れたことが大きなポイントです。
この事業で私たちの生活はどう変わるのか
彼はスピーチの後半で、「この事業が成功するとアメリカはどうなるのか、そして私たちの生活がどう変わるのか」というメッセージも送っています。
こうしたメッセージも宇宙開発に関わっていない私たちの一般の人達にも興味を寄せることに繋がった理由です。
そして、何よりもすごいのは、このスピーチの後、実に8年で1969年にアポロ11号で見事人類の月面着陸に成功することです。
また、この宇宙開発への取り組みを通じてアメリカを発展させる様々な副次的な技術が生まれたと言われています。
この偉大な事業を成し遂げるきっかけとなった彼のスピーチは「MoonShot Speech」と言われ、事業開発におけるシンボリックなエピソードとなっています。