2022年11月から23年1月に実施された、新規事業創造に取り組む大手6社合同による「事業アイデア創出プログラム“Hatch! Reframe Open”」。各社から参加したメンバーは、このプログラムの中で、どのような葛藤や課題を感じ、どのような気づきや学びをしていたのでしょうか。約3ヶ月に渡ったプログラムでの心境や心情の変化を参加メンバーの4人に語ってもらいました。
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▼インタビューさせていただいた皆様
五十鈴株式会社 事業企画・開発チーム 朝岡 睦騎様
2002年に新卒で同社に入社。新規事業開発を担うとともに「両利きの組織化」実現に向けたグループ全社の取り組みをプロジェクトリーダーとして推進する。同プロジェクトをさらに進化させるべく、複数社合同開催となった本プログラムに参加。他者・他社からの学びを意欲的・精力的に自社の活動に還元する。
KDDIアジャイル開発センター株式会社 人事部 兼 KDDI株式会社 DX統括部 上田 綾子様
2004年に新卒で同社に入社。人事部にて経験を積んだ後、ソリューション営業本部にて営業企画や業務改善に携わる。2022年7月からはKDDIアジャイル開発センター(新設子会社)に出向し、同社の人事を担当している。
日産自動車株式会社 国内営業部 M&Sパフォーマンス推進部 荻原 健様
2002年に新卒で同社に入社。マーケティングやプロダクトプランニングに携わったのち、各地域のセールスをマネジメントするエリアパフォーマンスマネージャーなどを経験。現在は、国内営業担当役員のテクニカルアシスタントを担う。
KDDI株式会社 ネットワーク推進部 加瀬 有理様
2021年に新卒で同社に入社。お客様に信頼して使っていただけるネットワークを届けることをビジョンにネットワークの設計・構築に携わる。現在の職務に携わる中で、お客様の問題や課題、社外の方々との意見交換の機会を得たいと本プログラムに参加。
※所属 / 肩書きはインタビュー当時のものです(2023年2月)
michinaru: まずは今回、“Hatch! Reframe Open”に参加した理由を聞かせてください。
KDDI 加瀬様(以下、加瀬様):私がこのプログラムに参加しようと思った理由は、異業種混合による学びで、自分の視野を広げ、視座を高めたいと考えたからです。また、業務の中で感じる疑問や問題を解決するためのヒントを得たいという気持ちもありました。加えて「自分のWillに向き合う」というテーマにも惹かれましたね。学生時代に教職課程を取得したこともあり「次世代を担っていく子供たちがもっとイキイキと生きられるような何かを届けたい」という気持ちをずっと持っており、その夢に向き合ういい機会になるのではと、参加を決めました。
KDDI 上田様(以下、上田様):私は、長く人事として仕事をするなかで「人事をずっとやっていていいのだろうか」という気持ちが芽生え、「新しいことに挑戦してみたい、その中で自分のやりたいことを見つけたい」という思いから参加を決めました。KDDIでは、本プログラム以外にもさまざまな研修やプログラムがありますが、「Hatch! Reframe Open」を選んだのは、自分の「スキ・トクイ・ダイジ(好き・得意・大事)」を起点にして、新しい事業のアイデアを形にするという点に共感したからです。年次が上がるにつれ、自分の業務のやり方が固定化されていくことに対する焦りや危機感、自身のキャリアに対する不安や不透明感を感じていた最中にこのプログラムに出会い、思い切って手を挙げました。挑戦意欲のある社員に対して、こういった機会を提供してくれること自体に会社からの応援を感じて、嬉しくもありましたね。
日産自動車 荻原様(以下、荻原様):私の場合は、事業部の人事・上司から声をかけてもらい参加を決めました。参加に迷いはなかったです。というのも、ここ数年研修に参加できる機会が少なく、学ぶ機会に飢えていたんです。日本全国のエリアや地域のセールスマネジメントに従事していた際は、販売会社の営業日に合わせたスケジュールのため、平日の研修やイベントへの参加は難しい状況でした。常日頃から上司が「外と接点を持つことが大切だ」と言っていて、実際の仕事でもその重要さを肌で感じていたので、他者とのつながりや他社からの学びに期待をしていました。
五十鈴 朝岡様(以下、朝岡様):私も合同開催にとても魅力を感じました。ここ数年、グループ全社における「両利きの組織化」を推進する役割を担っており、他社と比較をすることで「今、自社はどのような状態なのか」を客観視できるいい機会になりそうだと感じました。社員のモチベーション状態やビジネスリテラシー、組織風土など他社と比較をすることで自分達の現在地を客観的に捉えられるとともに、自社の成長や進化に活かせる新たな発見があるのではと考えました。また、過去に、同様のプログラムを自社開催したことがあり、その際は事務局としての関わりでした。年次的にも企画側(事務局)としての役回り、立ち回りが多くなってくるからこそ、いちプレイヤーとして自分の頭で考え、手と足を使って、何かを生み出す経験をもっと意識的にしていくべきだと思っています。
michinaru: 通常の業務に加えて、プログラムに参加することに迷いはなかったですか?
上田様:現在、所属している部署が事業の立ち上げ期だということもあり、これ以上負荷をかけることが自分にとっても周囲にとってもよいのか不安や迷いがありました。でも、先延ばしにしたらチャンスはもう来ないかもしれない。そう思って、家族に相談したところ「ぜひやってみなよ」と快く送り出してくれました。
michinaru:3ヶ月間のプログラムを通じてどのような学びがありましたか?
荻原様:私が1番大変だと感じたのは、DAY1で実施した「課題決め」です。不足や不満、不便といった世の中の「不(=課題)」を「自分ごと」として捉えることがなかなかできず、抽象的な一般論に終始してしまうという困難にぶつかり本当に悩みました。そんな状況を打開してくれたのが、同じグループ(以下:ホームグループ)だった加瀬さんです。プログラムの途中で、他の参加者の課題を見る機会があり、その際に加瀬さんが掘り下げた「不」の表現に触れて、自分が解きたい課題は「まさにこれだ!」と直感的に思ったんです。加瀬さんの了承を得て、それを私自身がこれから探究していく課題に据えることにしました。結果として、一人の親として課題に向き合い「自分ごと」として突き詰める楽しさと、考え抜く意義を感じながら取り組むことができました。
朝岡様:荻原さんのように、周りの人と話をすることが事業アイデアを磨く大きな力になる、と私も感じました。多様な知と知が交わるからこそ、自身が心の底から解決したいと思える課題に辿り着け、幅広く多様な切り口でのビジネスアイデアが生まれることを体験し、改めて合同開催だからこその価値があったと感じています。また、ビジネスアイデアの発表がゴールではなく、発表されたアイデアに対して、参加者それぞれの視点や立場から意見を出し合い、アイデアをさらに磨きあげていくという協働のプロセスや空気感があり、michinaruさんのプログラム設計力・ファシリテーション力とともに合同ワークショップだからこその面白さや醍醐味を全員で感じることができました。
加瀬様:私が一番印象に残ったのは、初日に荻原さんと実施した、自分の「スキ・トクイ・ダイジ」を掘り下げていく一対一のワークです。自分の話をただ聞いてもらうことの効果やパワーをこんなにも感じたのは初めてかもしれません。一つひとつの事象の背景や意図、そこで感じた気持ちなどについて、丁寧に耳を傾け、話を聞いてくださいました。最終的に荻原さんが挙げてくださった「私はこんな人」という一文にまさに私が大切にしていることが反映されていて。こんな経験は初めてで、本当に感動しました。一方で、難しいと感じたのは、発散させたアイデアを収束し、形にしていく過程です。取捨選択、言語化が難しく、産みの苦しみとはまさにこのことかと感じました。「考える」ことは好きですが、「考え続ける」ことが難しい、そう痛感しました。この難局を乗り越えられたのはmichinaruさんの伴走や共に悩み、考えることを諦めない皆さんの存在があったからだと思います。
上田様:「不(=課題)」を見つけていく過程は、私も印象深かったです。普段の業務では、どうしても目の前の業務 = 足元の問題に囚われがちでした。でも、今回のプログラムを通じて「アイデアは、質の良い課題から生まれる」ことを実感し、その見極めが大切だと学びました。また、課題設定に向けたヒアリングを行う際、お願いをすれば協力して下さる方が多いことにも驚きました。これまで、忙しい方々の時間をいただくなんて申し訳ないとばかり思っていましたが、変な遠慮や先入観を捨てて、必要なこと、大切なことは真摯にお願いをすれば手を差し伸べ、協力をしてくださる方がいることを身をもって知ることができ、試行錯誤を繰り返す中で、課題を前に進める大きな力になりました。他にも、ペルソナの詳細設定やさまざまなフレームワークなど本当に学びの多いプログラムでした。自分の課題を腹落ちするまで考え抜き、周囲に発信して、他者の意見やアイデアを踏まえて磨いていく。普段は、それぞれが異なる業種・役割ですが、このプロセスを繰り返していくことで、新しいアイデアを生み出せると自信になりました。
michinaru:「人に意見を聴く」ことでの“気づき”を挙げてくださった方が多かったですね。
荻原様:そうですね。改めて「オープンに議論し、人の話を聞くという行為が課題をより鋭くする」と実感しました。結局のところ、解決策へのヒントもそこに内包されているんですよね。これまで企画の仕事に携わる際は、プロジェクトリーダー的な役割が多く、「自分で仮説を作り、検証し、皆さんに伝えて引っ張っていく」という物事の進め方をしていました。でも、少し効率を重視しすぎていたのかも、とこれまでの仕事の進め方を省みる機会にもなりました。成果創出に向けて、議論収束や多数決のために意見を聞くということではなく、お客様の真の問題は何か、相手の深層にある想いは何かなど相手の話を「傾聴する」というプロセスがとても大切なことを今回のプログラムを通じて学びました。
朝岡様:社内に持ち帰ろうと思うことは多かったですよ。皆さんの話を聞くことで、自社を客観的にみることができ、自社の強みや弱みに気づくことができました。 3ヶ月間、みなさんと何度も議論や対話を重ねる中で、みなさん「日常的にアイデアのアンテナを張っているんだな」と感じることが多くありました。世の中の動きや各業界の動向などを含めたビジネスリテラシーを、日常から強化していかなくては、と自社の人材育成や事業創造における伸びしろやヒントを得ることができました
michinaru:参加したことによって「事業アイデア創出」についての印象は変わりましたか?
加瀬:今回の経験を通じて、事業創造って難しいけど、自分にもできるかもしれない!と印象が変わりました。「普通の社員だって挑戦していい!私だってやっていいんだ!」と思えたのは、大きな変化です。
michinaru:その他に印象的だったことや、改めて皆さんと共有したいことはありますか。
朝岡様:先ほども少しお話しましたが、他社の皆さんと一緒に参加することで、得られた効果は想像以上でした。フラットな関係性だからこそ、素直に頼ることができたり、雑念なく意見を言い合えたり。お互いがお互いを尊敬、信頼していたからこそ、意見やアイデアが出やすい環境だったのではと思います。
上田様:そうですね。自分とは違う環境で仕事をしている方々だからこそ「うちの会社はこうなんだけど、御社ではどうですか?」といった自然な問いや会話が生まれやすかったですね。そんなちょっとした疑問や質問からの発見・気づきもたくさんありました。私が特に驚いたのは、日産自動車さんが大企業にもかかわらず、とてもフラットな組織文化を持たれているということ。日産自動車さんの組織文化について、荻さんを質問攻めにしてしまいました(笑)
荻原様:そういった反応をいただくことに、逆に私はびっくりしました(笑)。外からの視点に触れて、改めて自社の魅力や特徴、カルチャーに気づくことがありますね。その他、私が強く感じたのは、「座学」と「自分が頭も体も動かして体験する」のには天と地ほどの差があるということです。「課題を磨く」「関係者に話を聞く」「自分の心が動く方に進む」などの考え方は、新規事業に関わる人に限らず、多くのビジネスパーソンの業務で大事な視点だと思います。私自身も今回のプログラムで体得した多くのことを日常業務で活かしていきたいと思います。このプログラムに参加することで「新規事業創出って、本当に楽しい仕事なんだな」と感じさせてもらいました。
朝岡様:私も後輩たちにどんどん参加してほしいなと思います。シリーズ化して、外の人たちとの学び、ネットワークを作る場としても活用できますし、賛同企業を増やすことで、より多様な学びやアイデアが生まれそうです。ぜひ、引き続きよろしくお願いします。
michinaru:今回は、事業アイデアをつくる(アイディエーション)に特化したプログラムでしたが、そのプロセスは個人のキャリア観やリーダーシップ形成にも強いインパクトをもたらすんだな、と感じました。
加瀬様:このプログラムでじっくり自分の課題に向き合うことができたのは、michinaruさんの人に寄り添う温かい伴走があったからだと思います。
上田様: 今までさまざまなコンサルタントの方に会いましたし、研修やワークショップに参加してきましたが、ここまで「自分ごと」として課題を捉え、やりきれたことは初めてでした。それができたのは、プログラム内容が自然と気持ちを前に進ませてくれるものだったこと、そして、その進め方、良い場づくりがあったからこそだと思います。新規事業に取り組むことが初めての方々にとっても取り組みやすい内容で、社内に広めていきたいです。ここにいらっしゃるホームグループの皆さんというメンバーに恵まれ、michinaruさんの伴走で一緒に進んでこられたこと本当に良かったです。ありがとうございました。
本プログラム 参加者による アフタークロストーク・事務局編は こちら