横山)今日はmichinaruとご一緒に進めさせていただいた「職業人生に宛先をつくるHatch! Ambition」の取り組みの背景にあったものからお話しを伺えたらと思います。よろしくお願いします。
村梶様) はい、よろしくお願いします。
横山)まず、何がきっかけとなってこの取り組みを始められたのですか?
村梶様)2020年の初め頃から人事制度改訂の検討を始めていました。経営方針が「価値創造」から「未来創造」に変わったことから、現状の課題ベースではなくて、未来創造企業を構成する「一流の挑戦者集団」となっている状態をイメージして、これからの組織像・人材像をチーム内で議論しました。
横山)目の前の課題からではなく、理想とする未来から思考されたのですね。
村梶様)そうです。当社は1989年に石油化学事業から撤退し、新たに「価値創造企業」の旗を掲げ理想に向かって全社が一丸となり確立してきました。それは、一つの目標のために一人ひとりが誠実に向き合い、力を合わせて結集する日産化学の誇るべき強さがあってこそ成し遂げられたことだと思っています。
村梶様)その強みを活かしながらも、価値創造のさらに上位概念である未来創造企業になるにはどうしたらいいのか。「価値創造ではなく、未来創造とは」「未来適応ではなく未来創造とは」、各職種における「未来創造のための挑戦とは」こんなことを議論しながら、全ての部署の全ての社員に未来創造に向けた挑戦行動を促すためのコンセプトを考えました。その一つが「生きがいを力に」です。
菊池)「生きがいを力に」にはどんな意味が込められているのでしょうか。
村梶様)これまでは当社は「危機感」を強い原動力として成長してきました。その原動力の大きさは実感しつつも、VUCAと言われる変化の激しい時代に、常に全員が同じ危機感を持ち続けることは難しいのではと考えました。では何を原動力にするのか。そこで創業のDNAに立ち返りました。そもそも弊社は、食糧不足が深刻だった時代に化学の力で貢献したいとの思いから創業した会社です。「生きがいを力に」には、一人ひとりの内発的な動機を原動力にすることで、未来創造企業になるという想いを込めました。
横山)一人ひとりの内発的な動機について現状をどう捉えていましたか?
村梶様)どんなにハードルが高くても組織における役割や目標をやり抜く人が多い反面、その過程で自分自身のWillが置き去りになっていると感じてました。「目の前に課題はあって、それをどうにか解決したい」という会話はたくさんあるのですけど、「どういうことがしたくて今の仕事をしている」という会話が少ないと感じていました。
それは、当社が行ってきた教育にも表れていて、役割期待に応える中核人材を育むための研修は充実しているものの、社員一人ひとりの人生やキャリアへの意思を育む研修は行ったことがありませんでした。
横山)そうした文脈において、弊社のプログラム「Hatch Ambition」はどのような位置付けで導入いただいたのでしょうか。
村梶様) 「Hatch Ambition」のプログラムは前担当の贄(にえ)から紹介してもらい、自分の見つけた課題起点でwillを育むという話に共感しました。私たちがまさにやりたいと思っていることにフィットした感じでした。
一人ひとりがやりたいことを発信し、その想いに共感して仲間が集まって達成に向かっている姿をイメージしていました。コロナ渦で入社をし、変化の激しい時代を体感した20年度のメンバーだからこそ、まずそんな仲間にしたいという想いがありました。
横山)社員アンケートの中で「今の研究テーマがなくなったら自分は何をやればいいのか悩む」という声があったと伺いました。
村梶様)そうですね。アンケートでは、「先輩の人事異動を見て自分の将来が不安になる」という意見もありました。一方「キャリアを変えたい、異動したい」と言う人に何がやりたいのかと聞くと「そこがわからない、見つかっていない」という答えが返ってきたりもしていました。
横山)今の業務や研究テーマという狭い範囲でキャリアを捉えられがちなので、一人ひとりの人生における働く目的、誰のために何をするのか、を見出すことが出来れば、不安が解消できるのではと考えられたのですね。
村梶様)はい。こうした背景があり、1日の研修でインプットして終わりではなく、4か月という期間をかけて世界を拡げ、それぞれなりの解にたどり着くHatch! Ambitionを行いました。自分だけで考えても見つかりにくい一人ひとりの働く意味や目的を見つけ、長いキャリアの力にするために必要な時間・期間をしっかり取りたいと考えていたからです。
横山)Hatch! Ambitionの中で印象に残っているシーンはありますか。
村梶様) 言葉にうまくできないものを粘土を使って表現し、それをみんなで深堀りしていくシーンですかね。何気なく創った作品に価値観が反映されていること、またそれを言語化して語り合っている姿が印象的でした。もう1つは、彼らが描いたビジョンは、会社とか専門にとらわれない個性を感じたことが印象に残っています。
横山)それは何が影響したのでしょうね。
村梶様)そうですね、研修の課題で外の人に話を聞きに行った数が多かったからかもしれません。
また、「人生最期の日」という作文(課題)を共有しているときは、恥ずかしそうでありながらも本当に人生で達成したいことを話していたので生き生きとしていました。そこでお互いの関係がグッと近づいたことはとても大きかったですね。
村梶様)そうした経験もあって、最終日に行った学びの振り返りでは、一人ひとりの今感じている想いや考えが率直に飛び交い、それに対する意見を重ね合うことでさらに学びが深まっていく、非常に質の高い対話を全員で行っていました。
こうした研修の場では、想いがあっても周りの様子や反応が気になって発話を控えたり、表面的な対話に留まることも多いと思うのですが、オンラインでもこんな深い会話が出来るんだと驚きました。
横山)たしかに、初日や二日目などは指名されて喋るというパターンが多かったですが、最終日はそれぞれの個性が前面に出てきた感じがします。チャット等でのレスポンスも驚くほど早かったですね。
村梶様)はい。最終日には、未来を切り拓く上で大切な力として伝えていた「自ら打席に立つ力」という言葉に対して、今の自分との距離感を率直に語っていましたね。
「今は自分の立つ打席を選んでいる段階。だからこの言葉には距離がある」と発言した人や、「ライフミッションの実現には距離があるけど、そこにむかう小さな舞台はどんどん立っていきたい」という声も印象に残っています。
それまで取り組んできたことへの自信と仲間への信頼から、自分の人生や想いを語りたいという衝動が湧き出てきたのだと思います。
横山)Hatch!Ambitonの取り組みから新たに発見した事はありましたか。
村梶様)「Will」を起点にしたいと思いながらも、社員はそれぞれに多様な個性を持っています。キャリアの最初から「Will」をスタートにしたほうがよい人もいれば、少し能力をつけ、できることを広げながら「Will」を見つけていく人、与えられた役割を果たす中でそこに「Will」を見出す人もいるということです。
同時に、上の年次の社員と比べると若手のほうが視野が広くライフミッションを定義できていたことも大きな発見でした。会社や自分の専門領域に縛られることが少なかったと思います。若手の時からそれを意識してもらうことは大切ですし、それを上の人が聴くことでお互いに刺激を与えられればいいのかなと思いました。
横山)若手からの刺激は大変貴重で、組織にとって何にも変えられない力を発揮することがありますね。
村梶様)最終日、参加者の想いのこもったプレゼンテーションを聞いて、当時の人事役員が「今までは若手の意見を素直に聞けてない自分がいた、と。これからは若手の意見をしっかりと活かしていきたい」と言ってくれたことはすごく大きかったかなと。またそのように捉えてくれる経営者がいるというのは恵まれているなと思いました。
横山)変容を支えたい今だからこそ、役員がそうした発言をされることに大きな意味を感じたシーンでした。
菊池)今の課題感と今後の展望を伺えますか。
村梶様)今回Hatch! Ambitionの取り組みを通じて、人生の目的や働く意味である一人ひとりのWillを見つけることは、個別に向き合わないと出てこないと思っていましたが、全員がそれについて一緒に考え、語り合うことでも見えてくるのだと感じました。
お互いの生きがいを当たり前に共有できる場を創っていきたいですし、大切に語り合える集団にしていくために取り組んでいきたいと思っています。
菊池)この研修が「組織に従う個」から「個を活かす組織」への変化の起点になれば嬉しいですね。
横山)Hatch! Ambitionの最終日に村梶さんが参加者に対して「未来創造って私もどうやったらいいか答えはない、でも手探りで、みんなでやりたい」と語りかけておられました。
村梶様)研修の中で彼らが未来創造に向けて行動し、活き活きと話す姿を見せてもらったんですよね。そんな姿を見て、自分自身もそのコンセプトの体現者でありたいと思ったんです。
横山) 最後に、Hatch! Ambitionの取り組みを一言で村梶さんが表すならどう表しますか。
村梶様)私にとっては、「生きがいを力に」に向けてのファーストトライです。参加した社員にとっては、飾らず、衝動で話せるほどの仲間や応援者ができたプログラムだと思っています。
菊池)素敵な言葉にまとめていただき、ありがとうございます。