WORKS事例紹介

挑戦する人づくり,応援の土壌づくり,挑戦と応援の仕掛けづくり
株式会社中村屋

社員との対話で 社員の中に眠る想いに火を灯す 新宿中村屋の挑戦
〜成熟企業の組織変革を担う経営者と担当者の覚悟〜

左から michinaru菊池、中村屋 企業変革室 新川様、河野様、菅様、michinaru横山
正式名称
新理念体系 および ブランドステートメントリリースに際した社員ワークショップの開催
①「ワクワク!ワークのためのワークショップ」
 手挙げ参加者 約50人(全4回) 
②「理念体系・中村屋の約束(ブランドステートメント)実行ワークショップ」
 対象約700人(全32回)
課題
企業変革の核となる新理念体系およびブランドステートメントに対する体現促進
 (創意工夫や挑戦行動の後押し、組織風土に蔓延する諦め感の打破)
サポート
①「ワクワク!ワークのためのワークショップ」
 企画設計/ファシリテーション/ファシリテーショントレーニング(内製支援)
②「理念体系・中村屋の約束(ブランドステートメント)実行ワークショップ」
 企画設計/ファシリテーション/ファシリテーショントレーニング(内製支援)
結果
・部署の壁を越えた価値創造マインドおよび一体感の広がり
・社員の変革への期待/機運醸成
・変革チームの社員に対する誇りと変革を成し遂げる覚悟の強まり
企業変革室 室長 河野 奈美江 様
背景

理念体系の刷新とブランドステートメントの策定。
前社長が率いた「食」に集中するための土台づくり

横山:中村屋さんは2021年12月に創業120周年を迎え、理念体系の見直しやブランドステートメントの策定をされています。

今回、私たちは、これらを社員に共有するための2つのワークショップをご一緒させていただきました。この一連の流れは、鈴木達也前社長が創業120周年を機とした企業変革を目指したことと関係していますね。

河野様:はい。鈴木前社長は就任以降、子会社の吸収・譲渡や拠点の集約、工場新築などインフラの整備を行い、本業である「食」に集中するための土台を整えてきました。そして同時に、理念の再構築にも取り掛かりました。

以前から理念や行動指針はありましたが、営業なら「売りやすさ」を、生産なら「作りやすさ」がどうしても優先され、顧客に対する意識が薄くなっているところがあったんです。創業者の「お客様にとって価値のあるものを、従業員同士が協力して創り上げていく」という信念が薄れ、会社が組織であるという強みを活かし切れていない状況…。だからこそ前社長は企業変革を掲げました。

刷新された経営理念、ミッション、ビジョン

菊池:強い求心力を得るために、企業理念を再構築されたということですね。

河野様:はい、まずは理念体系の大軸である経営理念を「真の価値を追求し、その喜びを分かち合う」に刷新。加えて、「ミッション」や「ビジョン」も策定しました。

理念体系が社内向けである一方、ブランドステートメント「変わらない『おいしい』を、いつもあたらしく」は顧客への約束です。お客様にとっての中村屋の存在意義や提供価値を、より具体的にしました。

社内の反応

新理念体系リリースも、蔓延する諦め感。
一人ひとりの創意工夫が全体の進化に繋がらない現状

横山:新理念の公表は、社内ではどのように受け止められましたか?

菅様:「それで何が変わるの?」という反応が多かったですね。言葉は新しくなりましたが、期待が高まっている訳ではありませんでした。

横山:期待しても何も変わらないという諦め感だったのでしょうか。

私もこの時期に、数名の社員の方にインタビューをさせていただきましたが、一人ひとりの創意工夫や挑戦意欲が会社全体の進化に繋がっていないところに、課題感があるようにも感じました。

菅様:確かに。「どんなに計画しても、結局は実行できないじゃないか」という反発の声を耳にしていましたね。

横山:だからこそ前社長は、ご自身の代でなんとかしようと変革を目指したんですね。

取り組み内容

新理念体系リリースに合わせて開いた手挙げ参加ワークショップ。
理念の浸透ではなく、社員の中に理念を見つける設計に

横山:最初に実施したのは、若手社員を中心に自ら手を挙げた50人が参加した「ワクワク!ワークのためのワークショップ」でした。設計において大切にしたのは、いわゆる”理念浸透研修”にはしないこと。個人の“ワクワク”や“生き生き”を大前提とした上で、理念体系で謳われている自己成長や挑戦への動機を高め、結果として「理念を体現する人が増える組織」になることを目指しました。

菅様:今は「会社のために自分がいる」のではなく、「自分のために会社がある」と多くの人が考える時代。だからこそ、自身のキャリアアップや成長の先に理念がある、つまり自らの成長を追う過程で、知らず知らずのうちに新理念体系を体現できれば、それが会社の成長につながるのでは、と考えていました。

横山:打ち合わせで「自分のキャリアを考えることが、会社の中で良い仕事をする原動力になる」という考えを伺い、すごくいいなと感じました。普通は理念を咀嚼させようとしてしまいますから。

企業変革室 課長 菅 麻里子 様

河野様:会社の理念を浸透させるプロジェクトをありがたく感じる人なんていないですよね。まずは「自分の体験やありたい姿」があって、それに理念が紐付くことで理念の浸透につながるはず。だからこそワークショップでも「理念を学ぶ必要はありません」と伝えていました。

横山:結果的に、変わる機会に飢えていた、成長や挑戦に向けて心に種火を持っている人たちが集まってくださいました。食に関わっている誇りと同時に、自分たちの存在意義に危機感を持ち、その思いを共有する場を渇望していると感じました。ベテランや課長クラスの方もいらっしゃいましたが、印象に残っている参加者はいますか?

河野様:ワークショップの後、「今まではただ商品を売れば良いと思っていた。でも今は、お客様の笑顔のために働いていこうと思っている。変化した自分がいた」と言っていた、中堅の営業職の男性社員ですね。

横山:「感動と笑顔をお届けする」というミッションにご自身の価値観が響いたのでしょうね。私はある管理職の男性の方が「前例踏襲してきた自分の怠惰さに気づいた。超えていかなければ、自分もチームもお客様も会社も幸せになれない」とおっしゃったのを聞いて、とても痺れたのを覚えています。柔らかなワークショップ名とは裏腹に、やることは硬派。これが中村屋さんの真骨頂な気がします。

ワークショップを通じて全社員に直接共有したブランドステートメント。
語り合うことはとても大事なことだった

”変わらない「おいしい」を、いつもあたらしく”と謳った中村屋の約束(ブランドステートメント)

横山:続いて実施したのが、ブランドステートメントについて「どう感じたか」、「どこに共感するか」など、自分の思いを話し合ってもらう「理念体系・中村屋の約束(ブランドステートメント)実行ワークショップ」です。

菅様:新理念策定などに関わる中で、中村屋のブランド化が十分でないように感じ、 “中村屋らしさ”を言語化するために、ブランドステートメントを策定しました。

新理念体系の際は、一方的な社内公表となったのですが、ブランドステートメントはできるだけ多くの社員に触れてほしかった。だからこそ早い段階で、全員を対象としたワークショップを開こうと決めていました。

河野様:このワークショップは約700人の社員を対象に、年代や職場をシャッフルして実施。michinaruさんのサポートを受けつつ、計32回を1年掛けて開催しました。

30回を超えるキャラバンで全社員に対話の場を届けることにこだわった

菅様:この効果かブランドステートメントに関する社内の大きな反発はなく、「いいねぇ」という声も自然と耳に入ってきているんですよ。

菊池:理念を社内発表したときとは、大きな違いですよね。

菅様:ええ。ブランドステートメントの言葉を覚えてもらうのではなく、「動いてほしい」「感じてほしい」という思いで、「自分の好きな部分」について語り合ってもらう内容にしたことも、要因かもしれません。

横山:ワークショップの冒頭、河野さんたちが「ブランドステートメントを覚えなくて良い、ただお近付きになって帰ってほしい」と言っていました。言葉としての意味も深いなと思いましたし、懐も深いと感じました(笑)。

河野様:そうですか(笑)。私たちは、社員が思いを語り合うのを目にすることで、改めてコミュニケーションの力を感じました。日常業務の中で、思いや考えを語る時間はあまり取れません。ましてや部署を超えてなんて。(語り合うことは)すごく大事なことだったのだと、ハッとしましたね。

取り組みを通じて見えたこと

ワークショップを通じて知った社員共通の「おいしい!」への熱意。
役割や立場を超えてバトンを繋ぎ、お客様に届ける

ワークショップ後、ひとりひとりの宣言を結集した「私のステートメントtree」

河野様:ワークショップの中で、ある女性社員が「普段は売り場にいるので、ほかの方の仕事内容を知る機会なんてなかった。中村屋にこんなに熱い思いを持ち、商品を作っている人達がいるのだと知った。私の仕事は、最後の工程。これからは、もっと笑顔で売っていきたい」と語ってくれたんです。

菊池:ブランドステートメントが相互理解を生み、人と人を繋いだんですね。

河野様:やはり「思いを語ること」ってとても大事なんですよね。

横山:「ブランドステートメント=お客様との約束」を“全社員”に体現してもらうために、どんなに大変でも思いを語り合う場を作り、生で届けるというところに、河野さんや菅さんの変革への本気を感じます。

河野様:今回、たくさんの社員と接する機会を得ましたが、中村屋の社員はみんな、「おいしいものへの情熱や純粋な思い」を持っているのだと知りました。

菅様:まさに「おいしさへの熱意」が共通している。おいしいなんて当たり前、それ以上のことを追求している。私自身もみんなの思いを聞くことで熱意に共感し、より仲間になれた気がします。

ワークショップを終えて

仕掛け側が全社員とのワークショップにどっぷり浸かる。
芽生えた社員に対する誇りと企業変革への覚悟

横山:ワークショップを終えての感想をお聞かせください。

河野様:michinaruさんにはワークショップの設計からファシリテート、講師役の育成までしっかり付き合っていただきましたが、どの場面においても私たちの“思い”を大切にしてくれていると強く感じました。

普段の研修は「ザ・お勉強会」になりがちなのですが、堅苦しい雰囲気はなく、みんな笑顔で参加していました。“ちょうど良い”雰囲気と言いますか、こちらが心を開いたら受け入れてくれる安心感があるんです

菅様:開催中のブランドステートメントワークショップでは、現在私たちがファシリテーター役を務めていますが、横山さんをお手本に、相手に寄り添うよう努めています。でも、なかなか難しい(笑)。横山さんがおっしゃっていた「今日、皆さんが感じたことこそが、ステートメントなんですよ」と、私も伝えるようにしています。

組織の変化と今後のビジョン

横山:そう言っていただき、とても嬉しいです。では最後に、企業変革を推進されてから、これまでの会社の変化をどのように捉えていますか。

菅様:私自身、今まで会社が変わっていくイメージを持てていませんでした。でも今は「変われるのでは」と感じています。自分の力を発揮して「おいしいものを作りたい、売りたい」と熱い思いを抱いている人がこんなにもいるのだと知り、みんなの思いを活かすことができれば、きっともっと良くなっていくと思っています。

河野様:私は一連の取り組みを通じて、より会社に愛着がわきました。そして同じように愛着を持っている人が多いことにも気がつきました。一方で、組織の中で気持ちが折られたり、傷つけられたりしている現状も知りました。

だからこそ、ここからです。社員の熱い思いや「会社は変わろうとしている」という期待を、嬉しさと同時に責任やプレッシャーも持って受け止めています。

菅様:これからも、「ブランドステートメント=お客様との約束」を実現するために、経営陣と現場を、そして製造や営業、販売と全体をつなげていかなければと思っています。

菊池:既に新しい課題に向き合われているのですね。

横山:仕掛け側であるお二人がワークショップにどっぷりと浸かり全社員の生の想いに触れたことで、変革を成し遂げる自信と覚悟を強めてこられた姿に感動しました。素晴らしいお話をありがとうございました。

担当からの声
「成熟企業の組織変革はいかに成し遂げられるのか。」

創業120年の歴史を持つ中村屋様は、多くの企業が直面するこの課題に この数年 正面から向き合ってこられました。

成熟企業の組織変革が難しいのは、歴史の長さや蓄積してきた成功の大きさが強い過去慣性となり、一人ひとりの想いや行動にかかわらず組織を硬直・分化させるからでしょう。本来財産であるはずのアイデンティティーさえも自分たちを縛る要素になってしまいます。

そのような難しさの中で、企業変革室の河野様と菅様は36回のワークショップに自らどっぷりと浸かり、一人ひとりの想いを引き出し、視界を広げ、隣人同士を繋げる営みを根気強く続けてこられました。理念やブランドステートメントを核に会社を変えることに腹を括り、「伝えて終わり」「設計して終わり」ではなく、現場で働く社員一人ひとりと対話の機会を分かち合うことにこだわったその姿勢に、私たちが学べることが詰まっているのではないでしょうか。

インタビューの最後に「今では、私たちも変われるんじゃないかと感じている」とおっしゃったその言葉に、数年の泥臭くも確かな歩みが詰まっていました。今後の進化を、一ファンとしてもパートナーとしても応援しています。
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