昨今、ビジネス環境の変化により、多くの企業で新規事業の必要性が叫ばれ、取り組みが開始される中で、新規事業を推進するリーダーや担当者の方々が、特に強い関心を持たれるのが「経営陣や現場マネジャーの巻き込みや関係構築」というテーマです。今回、2030年ビジョンの実現に向けて、五十鈴グループの新規事業創出をリードする五十鈴ビジネスサポート株式会社 朝岡さんに事業創造を前進させる経営幹部の巻き込み方や関係構築のポイントについてお話を伺いました。
<お話をお伺いした方>
五十鈴ビジネスサポート株式会社 常務取締役 朝岡 睦騎様
大学卒業後、2002年に五十鈴株式会社に入社。三菱商事やメタルワンからの商社受託業務を経験。五十鈴関東に異動し、営業および新規事業開発に従事後、23年度より五十鈴株式会社 事業企画・開発チームの部長として本社勤務。24年からは、五十鈴ビジネスサポートの常務取締役となり同グループの新規事業開発をリードする。
横山:2020年のSXプロジェクト(未来社会プロジェクトの通称)発足以来、リーダーとして新規事業を推進されていますが、新規事業の挑戦者づくりのみならず、経営幹部の皆さんをはじめ「支える人」への巻き込みにも積極的に立ち回られている印象があります。
朝岡:弊社の場合、トップ(鈴木CEO)の強いリーダーシップがあることは、新規事業を推進する立場としてとても心強いです。私が前面に立つと反発が起こることや言いづらいことは、適切な役割分担や最適なメディアを見極めて進めています。新規事業の具体的なプロセスを進めるにあたっては、御社にもご協力いただいています。
菊池:昨今、事業創造の伴走をさせていただく中で感じているのが、事業を創る人以上に事業を支える幹部や上司の巻き込みについて課題感をお持ちの企業様が多いということです。幹部の巻き込みについてのポイントがあれば教えてください。
朝岡:実績が出れば、幹部の反応も一気に変わる、そのための土壌づくりをこの2年半かけてやってきました。
横山:朝岡さんのおっしゃられているここでの実績とは、何を指していますか。事業収益をあげることなのか、会社が新設されることなのか、その会社が安定的に事業運営できるようになることなのか。
朝岡:弊社の場合、求められているのは、売上です。でも、50個の事業と50人の起業家を育てることを目標として掲げる弊社の場合は、色々な事業のパターンがあっていいと私は考えています。どんどん収益を上げる事業もあれば、話題性がありグループのブランディングに寄与する事業、金額は大きくなくとも安定かつ継続的に収益をあげられる事業など、それぞれの事業やグループ全体における最適値があっていいと考えています。
横山:御社でいう幹部とは、もう少し詳しく教えてください。
朝岡:拠点長、役員にあたります。社員820名に対して、10名強といった割合構成です。弊社の新規事業における基本コンセプトは、出島化しないこと。出島化しないということは、現場でやるということです。現場の社員がやりづらくないように、事前に各拠点長や主幹役員に一定の理解と先行投資を了承してもらわなければ、この取り組みは前には進みません。日々の後ろ盾と意思決定をしてもらうためにも幹部陣との事前のコンセンサスは必須でした。
横山:そんな幹部の方々の新規事業に対する態度の変化はありますか。さまざまな企業様の事業創造に伴走する中で感じるのは、無関心、抵抗、理解共感、協力と順を追って反応が変遷するということです。
朝岡:事業創造の取り組みを開始した当初は、無関心というか、関心はあるんだけど、本気でリソースを投入するまでには至らない。誤解を恐れずに言えば、賑やかしだったのかもしれません。そこから、お金を掛けてやるとなると、反発が出てきます。既存事業のメンバーが汗水垂らして稼いだお金を投じる必要があるのか、という意見ももちろんありました。至極真っ当な対立だと思います。ただ、そういった局面でトップや新規事業を担う我々が本気でやるからこそ伝わる、理解・納得してもらえることがある、そう思って取り組んでいます。反発や対立が起こった際にきちんと対話を繰り返すことで、拠点長もリスクをとって判断・決断することの重要性を理解してくれ、徐々にマインドチェンジが起きつつある、今はそんな感じです。ただ、そこまで言って、巻き込んだからには最後、結果を出してくれるんだろうな、という重圧はもろに感じています(笑)。
横山:このフェーズで起こりうる反発や対立について、もう少しだけ詳しく聞かせてください。
朝岡:お金の話もありましたが、弊社の場合は、既存事業の社員の工数をどこまで割くのか。工数とはつまり現場の業務・タスクの進捗に影響がおよぶからです。最近は、特に労働時間管理への目も厳しいですから。
菊池:このあたりの葛藤は、どの企業もお持ちだと思います。御社の場合は、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。
朝岡:乗り越えられたとはまだ思っていません。弊社の場合は、本気でやろうと決めたアイデアに関しては、グループのプロジェクトという位置付けにしています。現在は、直近2年間でピッチを通過した5つの事業プランに事業リーダーを据えて進めています。「50個 50人の起業家と事業」を目指す上では、まだまだこれからです。
横山:これまでさまざまな仕掛けをされてきて、幹部の方々の巻き込みに効いたなと感じられていることは何でしょうか。
朝岡:どこまで巻き込むことができているのか。正直まだまだです。事業や地域によってマーケットの環境が異なるため、事業が好調で忙しい事業部だと、新規事業に対するマインドシェアはまだまだ少ないでしょう。一方で、成長戦略を考える中で、新規事業の必要性を感じてくれている拠点もあります。
菊池:朝岡さんの発言や取り組みにはいつも一貫性を感じます。このあたり意識されていることはありますか。
朝岡:一貫性というより、根比べだと思っています。どんな施策も最初は勢いよく始まるけど、2〜3年経つと徐々に尻すぼみになっていくことってあるじゃないですか。そうはしないということ。毎年、改善点を見つけて、ブラッシュアップしながらきちんとやっていく。それをやり続けることで、新規事業推進のメンバーは本気なんだ、ということが徐々に伝わる。些細なことかもしれませんが、毎年一つでも進化させながら根気強くやり続けるということが何より大切だと思うんです。
横山:今年は、人事異動も含めて、組織としての枠組みを大きく変えられていました。組織図の変更も会社の方針を伝える大切なメッセージだと思います。その他、事業創造を前に進める上でのポイントがあれば教えてください。
朝岡:弊社の特徴かもしれませんが、何かを前に進める過程で、「総論OK・各論反対」というシーンによく直面します。また、表層では綺麗なことを言っているんだけどもそれって本音なの?ということも。総論OKを鵜呑みにせずに、各論まで落とし込むことを常に意識していますね。
菊池:御社の現場社員やミドル層の方々が覚醒することで、幹部が影響されるということもありますか。
朝岡:大いにあると思います。特にマネジメント層は、現場から離れた時に学びが止まることが起こり得ますよね。これからの時代、学び続ける姿勢がこれまで以上に大切だと思いますし、経営を担う者であればなおさらです。幹部こそ学んでくださいとプッシュし続けることも私の仕事の一つだと思っています。また、その際に大切なのがコミュニケーションの取り方です。「何が原因なの?」という原因追求型のコミュニケーションから、「どうしたらもっとよくなるの?」という未来創造型の問いへと転換をするだけでも社員の意識やアクション、組織の風土は変わるのではないでしょうか。
横山:問いの転換、おっしゃる通りですね。最後にこれからの展望も教えてください。
朝岡:2030年ビジョンに誠実に、ひたむきに進めていくことです。そのために必要なら制度やマネジメント手法も変えていく、古き良き(悪しき)組織の慣習もどんどん変えていけばいいと思います。
菊池:成熟企業で事業創造を担当されている方々の中には、前例を打ち壊すことに躊躇される方も多いと思うのですが。
朝岡:私の場合、高校時代のサッカー部の経験があるからかもしれません。自分自身が変だなと思うことや納得いかないことは変えていくタイプ。1年生だからって全員が玉拾いしなくたっていい訳じゃないですか。無思考に前例踏襲をしない。世の中にとって、会社にとって、自分自身が正しいと思うことをやる。これからも2030年ビジョンに向けて、50個 50人の起業家と事業を育くめるよう真摯に進んでいきたいと思っています。
菊池・横山:本日は、貴重なお話ありがとうございました。