横山)この度は、貴重な機会をいただきありがとうございます。まずは、SXプロジェクト(正式名称:Society-Xプロジェクト)と呼ばれる貴社の新規事業の取り組みのきっかけや背景について、お話いただけますか。
朝岡様)はい、弊社は今年70周年を迎えた会社ですが、自社のDNAともなっているのが長らく社内で取り組んできた全員参画の小集団活動です。もともとは職場改善の取り組みでしたが、約20年前からは、IOC(五十鈴・オーガニゼーション・チェンジ)と称してお客様により良い価値を届ける組織変革活動を推進してきました。ただこの活動は既存事業の染み出しでの新価値創造は起こるのですが、事業へのインパクトも限定的で広い視野での事業創造ができていないという問題意識がありました。
朝岡様)昨年、「鋼板流通の価値創造から、未来社会づくりへの貢献」を掲げ、弊社の柱であるコイルセンター事業を土台にしながら、事業をより立体構造化する意図を改めて強くもちました。それを実現するために新たな仕掛けの必要性を感じていました。
菊池)これまでIOC活動によって、既存事業から派生する事業がいくつか生まれていたようですね。既存事業からの派生ではなく、さらにダイナミックに事業を創っていきたいということだったのでしょうか。
朝岡様)はい、既存事業の深化を進めながらも、新規事業を探索する。そのための組織としての仕掛け、仕組みが必要だと思っていました。
横山)御社は、「みんなの夢をみんなで自己実現する企業」をビジョンに掲げられていますね。
朝岡)はい、理念を大事にしながら、進化・成長し続ける、この考えを全員で体現する「全員参画経営」を大切にしています。どうしたら自分達の目指す未来に近づけるのか、皆で行動しながら具体化していくというスタイルが、弊社の特徴であり強みかもしれません。例えば、コイルセンターという業態をサービスセンターに変え、サービスセンターという業態をバリューセンターへさらに進化させる、といったように自己概念を拡張させながら、業容の拡大と業態の進化を実現してきました。バリューセンターになるためには、こんな行動や価値が必要だよね、と具現化し、日々の行動に落とし込んでいく、そんなマインドが社員には根付いています。
横山)そんな中で、新規事業創造の取り組みを本格化しようと打ち出されたのが約2年前。どのように情報収集やパートナー選びをされたのでしょうか。
朝岡様)社内にはナレッジがなかったため、とにかく外に出て学びました。書籍等でのインプットはもちろん、外部セミナーに複数参加し、他の企業がどの様な取り組みをされているのか情報収集をしました。当時、知れば知るほど、現状の取り組みでは新規事業は生まれないと強い危機感を持ちました。
横山)どういったところに感じられたのですか。
朝岡様)事業開発に対する根本的な考え方です。「千三つ(センミツ)」という言葉もあるように仕掛けなければ何も生まれない、一方で無尽蔵にリスクを取れる訳でもない。会社が歴史を重ねる中で、事業創造に向けた投資ではなく、事業維持あるいは事業深化のための設備投資になっていると感じ、組織の文化や新規事業開発のプロセスを変えていかなければと思いました。
横山)その後、どのように新規事業プロジェクトを推進されていったのですか。
朝岡様)既存事業の改善・伸長と、新規事業の開発は、明確にレイヤーを分け、時間軸を変えて進めることを意識しました。既存事業を否定するのではなく、会社を支える柱として継承する一方、これからの会社を創る活動として、新規事業を推進する、これを念頭に進めました。
プロジェクトの進め方についても、世の中一般的な正攻法をそのまま取り入れるのではなく、自社の組織文化に合ったプロセス・内容で進めていくことが大事だと考えました。そのため、パートナー選定に際しても、成功ノウハウを一方的に伝えるアプローチではなく、弊社の考え方や雰囲気、参加者特性を加味しながら、伴走いただけることを軸にオファーをさせていただきました。
横山)そんなプロセスを経て実現したのが経営幹部30名を集めたキックオフでしたが、実施をされてみていかがでしたか。
朝岡様)現状の問題や課題が浮き彫りになったセミナーでした。経営幹部層の「経営者マインドの醸成」と「マネジャーではなくリーダーの育成」が急務と感じました。
横山)具体的にはどういうことでしょう?
朝岡様)私は「自ら選んで、自ら責任を引き受け、全力を尽くす」というのが、起業家としての最低限の人材資質ではないかと思っています。弊社は、1月に創立70年を迎えましたが、これまでの会社の変遷、事業の成熟とともに、人材のマインドや特性も変化してきました。それに伴ってあえて厳しい言い方をすると、「全員参画経営」や「ボトムアップ型」という言葉の裏側で、経営幹部や管理者たちの新しいことを学ぶ姿勢、率先垂範するリーダーシップが弱まってしまっているのではと感じました。
朝岡様)VUCAの時代において、先が見通しにくい不確実な中だからこそ率先垂範する、強いリーダーシップを発揮するチェンジリーダーをもっと増やしていきたい、そう考えています。その為に、経営幹部が変わる必要性、リーダーが育つ機会・環境の整備が課題であると今回のセミナーを通じて改めて気付きました。
横山)新たな事業を生み出そうとするからこその課題ですね。セミナーでは、参加された方々の関心度にばらつきがあったように感じました。
朝岡様)参加者の所属拠点や階層によって、危機感の度合いや葛藤の深さは異なると思います。また、分社経営ゆえ、グループを超えて事業を捉え、考える機会が少ないのが現状です。グループ横断の視野・視座で考える機会を創っていくことも私の役割だと思っていますし、このプロジェクトをその契機としていきたいです。
菊池)セミナー後、参加者の方々に変化はありましたか。
朝岡様)確実に議論をしやすくなっていると思います。1回だけでは効果が見えにくいですが、継続・定期的にやることで、事業創造への意識や風土が醸成されるはずです。今年度は、事業創造のリーダーを創っていくフェーズ。さらにこの流れを加速させていきたいです。
横山)まさにここからですね。どんな展望をお持ちですか。
朝岡様)うちは大きな資本がある大企業ではないので、100億の事業を簡単には作れない。でも、ニッチでこぼれ落ちているマーケット、ビジネスが必ずある。事業形態に制約をかけず、小さくても顧客にとって価値ある事業を創り、その集合体を大きく育てていけたらいいなと思っています。
菊池)「100億の事業を1つではなく、10億の事業を10個」という着眼点がいいですね。事業創造における目標設定の一つの在り方だと思います。
朝岡様)ありがとうございます。その際、大切だと思っているのが「自分達で新しい価値を創ること」。安易に課題とリソースを持った会社を繋ぐ代理店的な存在になるのではなく、創りたい価値に対して自分達の能力をどこまで何を伸ばしていけるか、これが大事だと思っています。弊社では、ダイナミックケイパビリティと言っていますが、これを事業開発の具体論の中で創り上げ、磨いていきたいと構想しています。
横山)「今あるものから発想するのではなく、課題起点で発想することで、人・組織のケイパビリティを開発していく」という考え方ですね。
朝岡様)この体験を積み上げることが、弊社の事業創造にとって意味あることだと思っています。社員にもこの経験をしてもらいたいですし、そうすることで事業も人財(組織)も育っていくのではないかと思います。
菊池)これからmichinaruもご一緒させていただく「0→1事業開発プログラム(Hatch!)」や「SXプロジェクトアクセラレーションプログラム(Hatch! Agile)」で、その経験や成功事例を作っていきたいですね。
朝岡様)はい、世の中や顧客の不(課題)に目を向け、その解決のために自社の事業や価値をどう新たに創っていくか。そのための機会や風土創りを、引き続き一緒に宜しくお願いします。
横山)始動に向けて背筋が伸びる時間でした。朝岡さん、今日は本当にありがとうございました。