WORKS事例紹介

挑戦する人づくり
日産自動車株式会社

世界で戦う日本発経営リーダーを生み出す日産自動車の挑戦
~従来のリーダー像を180度転換させる取り組み~

正式名称
自分の内側を知り、自分らしいリーダーシップを描くプログラム Roots
課題
選抜型リーダー育成プログラム対象者の自己理解およびセルフ・リーダーシップ開発
サポート
Rootsの企画・運営・ファシリテーション(全2回・2か月)

※本プロジェクトは株式会社bouquet(https://bq-inc.jp/)との協働プロジェクトです
結果
①自身をリードできる人財の増加
②タレント同士のコミュニティ活性化

*本記事は日産自動車株式会社 人事本部 日本タレント/リソースマネジメント部 日本HR戦略グループの本木智也様・吉田茉祐様(当時)にお話を伺いました。

背景

世界で戦う日本発のリーダーをつくる 経営人財育成プログラムの立ち上げ

リーダー育成プログラム「Roots」導入の背景にあったもの

横山)私たちが提供するリーダー育成研修「自分の内側を知り、自分らしいリーダーシップを描くプログラム Roots(以下Roots)」を20年、21年と2年にわたって導入くださっています。そもそも、どういった経緯で取り入れてくださることになったのかから教えて頂けますか?

 

本木様)はい。日産には複数の育成施策があり、ご一緒しているRootsは次世代リーダー育成の文脈で導入しました。

横山)それはどのような取り組みなのですか?

本木様)2015年に立ち上がったプログラムです。端的に言えば、日本人のリーダー候補に特化した日本発の経営人財になっていける人財を育てていくプログラムです。

 横山)日本人に特化しているのはどんな背景があったのですか?

 本木様)日産はもともと日本の会社ですが、アライアンス以降、名実ともに「グローバル企業」となりました。結果、日産は日本人であろうと海外法人のローカル人財であろうと互角に競い合う、実力主義となりました。

例えば、海外法人には日本から管理職を大量に送り込むような形から現地のことは現地人財を育て、任せるという、グローバルな適材適所が進んできました。

「このまま放っておくと日本の会社ではなくなってしまう」

本木様)しかし、その影響は別の所にも表れました。経営人財の変化です。

横山)というのは?

本木様)海外勢の経営層が従来よりも増え、日本人の経営者パイプラインが細くなってしまいました。豊富なリーダー経験や言語も堪能に扱う海外のリーダーが増えること自体は海外売上比率の高さを踏まえれば頷けますが、このまま放っておくと日本の会社ではなくなってしまうという想いが当時の経営陣にありました。

だからこそ、グローバルで戦うリーダーを日本から育てないといけない、そこに敢えて注力せねば、という流れにいたったのです。

横山)当時の経営陣の想いが起点になっていたのですね。具体的にはどのようなプログラムなのですか?

本木様)弊社のプログラムでは役員手前の人財、その手前、中堅、若手、と4つの層に分けて、必要な育成やチャレンジプログラムを設けています。国籍は厳密に言えば日本人であることにこだわっているわけではなく、「日本発」でコーポレートのビジネスリーダーを育てることに重点を置きます。

横山)層ごとに課題をデザインし、それが乗り越えられるよう機会を提供してきたのですね。

Roots導入の狙い

自ら描く力と圧倒的当事者意識をどのように育むか 

自らのありたい姿をゼロベースで描く

横山)では私たちの提供する「Roots」は、なぜ御社のプログラムのひとつとして必要とされたのでしょうか?

吉田様)Roots導入の前、とある外部アセスメント調査の結果、日産の次世代リーダー人財についての総評が、「課題解決能力・コラボレーション力は長けている」が、「つき抜け感のない小粒な優秀者が多い組織」と言われてしまいました。 

横山)ショックですね。それは。

吉田様)はい、真正面から初めて言われて衝撃を受けました。なんでそうなんだろう?と考え、改めてアセスメント結果を振り返ったときに、分析力や課題解決力は高いが、アントレプレナーシップやチェンジリーダーシップ(変革力)が弱いということがわかりました。

横山)その二つの要素の裏側にはどんな問題があったのですか? 

吉田様)事業の特性もあるのですが、積み上げ式で考えがちで、自らビジョンを描く力を持っている人財が少ない傾向にあること。そして、傍観・批評家タイプの人が多く、周囲に反対されてもなんとしてでもやるんだ、という人、つまり圧倒的な当事者意識をもった人財が減ってるということを感じました。

リーダーシップの出発点はまずは自分自身をリードすること

横山)育成テーマとして、自ら描く力と、当事者意識があがったのですね。それでどうされたのですか?

吉田様)当時は「役員になりたい」、「社長になりたい」のようにポジションで語る人が多かったのですが、会社という枠を外したときに自分の本来の 「ありたい姿」や「何を成し遂げたいか」を深掘りし、語れることを注力する取り組みを増やしていきました。

横山)当時のJBLP事務局のマネジャーさまが「リーダーシップの三段階」について話していたことが印象に残っています。 

吉田様)そうです。Lead the companyやpeopleする前に、そもそもLead the selfができてないという話になりましたね。組織に順応してしまって、尖った個が削られてしまった状態だったので、Lead the self、つまり、自分のありたい姿も大事にしようよ、と明確な方針を打ち出したくてあの図を使いました。 

横山)参加メンバーの反応はどうでしたか?

吉田様)その考え方が浸透するには時間がかかったと思います。それまでは、目指すポジションのためにはこういうコンセプトで歩んでいきましょう、とプログラムは人事から与えるものでした。一方、次の方針は、自分でありたい姿から考えなさい、そのために必要な研修も自分で手をあげなさい、となったわけですから。

白紙の紙を渡されて自分自身を振り返る場を創りたかった

横山)おそらくこうしたタイミングで弊社のRootsを導入いただくことになったと思うのですが、なぜRootsがよいと思われたのでしょう?貴社には社内にキャリアコーチという専任の講師もいらっしゃいます。

本木様)キャリアコーチの主な役割は一人ひとりの育成計画を細かく設計して、実際に実現していくことです。これはあくまで仮定の話ですが、タレントのキャリアをきめ細かくサポートし推進するキャリアコーチのおかげで、かえって「キャリアを会社にリードしてもらう」、きっかけをつくっていた可能性もあります。

横山)キャリア設計を人任せにしてしまう、ということでしょうか。

本木様)もちろん、キャリアコーチもタレントに「あなたはどうしたいの?」と聞く一方で、やはり会社視点での育成の思いもあるわけです。タレントは与えられたチャンスにとにかく食らいつくことに重きを置きすぎるリスクが想定されていました。

こうした危機意識から、白紙の紙を渡されて自分自身を振り返る。そんな場を強制的に創りたかったのです。

色をつけたものをどう抜くか。「180度関わり方を変えた」

吉田様)また、利害関係もない場でゼロベースで考えることが必要だとも感じました。

横山)Roots導入の背景を聞いて、小野寺さんはどのような感想をもちましたか?

bouquet 小野寺様)「選ばれしものたちをどう育てるか?」というテーマは企業にとってはすごく大事な取り組みである一方で、自分たちの都合の良い色をつけようという力学が働いてしまいがちです。同時に、色をつけたものをどう抜いていくかもすごく大きく大事なテーマです。そこに立ち返ることを決めたというのが素晴らしいなと思いました。当時、「180度関わり方を変えたんですよ」とおっしゃられていたことをよく覚えています。

本木様)そうですね、日本からリーダーを生み出すという強い想いで立ち上がったプログラムですが、当時の経営層の期待が高いことはとても素晴らしいことでありながら、一方のタレント個々人の意志を薄れさせてしまった側面もあったかもしれません。

難しいのは本人たちのやりたいことをなんでも全て叶えられるわけではないことですね。個人と会社、お互いの期待をすり合わせていくというプロセスはリーダー育成に限らず必要ですよね。

会社の方向と独立して、自身のビジョンをありのままに
Rootsを実施して

鎧を脱いで対話に没入した空間 互いのビジョンを見つけ繋がる

Lead the Selfの始まり

横山)Rootsを実施して、どんな場だと感じましたか?

吉田様)参加メンバーにとって研修はピリピリした空気で自分の優秀さをうまくアピールしなきゃいけない場だったと思うんです。そういった意味ではRootsがはじめて、ありのままの自分を出せる場所だったのかなと思います。研修を超えてメンバーが繋がる場、自己開示する場でした。

横山)それは嬉しいです。特に印象に残っているシーンはありますか?

吉田様)プログラムの二日目でレゴブロックを使って、自分の創りたい世界を語り合っているシーンですかね。日産での業務の話でなく、自分の子どもが、みたいな話になっていていました。

これまで会社の向かっていく方向と個人のビジョンは切り離せないものだったが、ここではじめてそれらは独立したものとして認識し、互いのビジョンをピュアにみんなに話せる場でした。Lead the Selfの始まりを感じました。

横山)ワークショップの後、メンバーから初めて飲み会が行われたと伺いました。

吉田様)そうでしたね(笑)。Rootsをきっかけにメンバーの繋がりが強くなったと感じます。それは、ここは安全な場所だと認識し合えたからだと思います。今も続くコミュニティ活動に繋がっていきました。Rootsはリーダー人財コミュニティの起点になりましたね。

自分主語で語り、互いの言葉を聴く。今に続くリーダー人財コミュニティの起点。
きっかけさえつくれれば変わっていく

横山)スーパーサラリーマンの鎧が脱げたのですね。小野寺さんはワークショップの場でどんな風に感じていましたか? 

小野寺様)いままでの皆さんにとってはかなり振り切ったコンテンツだったと思ったので、頭で理解しないと進まないのかなと思っていました。何枚もスライドをつくって理論武装して臨んだのですが、杞憂におわりましたね(笑)。

そこに飛び込む力がすごくある人たちだったし、飛び込んでいいよという空気がつくられていきました。その場でたくさんのスライドを削って、引き算していった場づくりだったと思います。 

吉田様)たしかに、それは私も感じていました。二年目もそうでしたよね。オンラインになって、どんなふうにあの柔らかい雰囲気がつくれるだろうと懸念していましたが、きっかけさえつくれれば変わっていくのですね。やってるうちに彼らはのめりこんでくれる、そんなことが間近に見えた場でした。

日常とは異なるアプローチにも信じて飛び込むことで新たな視座が生まれていく
スキやトクイを伸ばしてもいい

菊池)実際にプログラムを設計する上でどんな作戦を立てたんですか? 

横山)個人の自己理解を助けWillを明確にする、だけではなく、自分はどんな世界や未来を創りたいのか、まで考えてもらえるようにコンテンツを設計しました。事前に育成プログラムの位置づけや集まっている方々のポテンシャルを伺い、より高い目線で自身のWillをとらえなおしすることが強いLead the Selfに繋がるのではないかと思ったからです。

小野寺)コンテンツのご提案に対しては、信頼して任せてくださった印象があります。事務局のお二人も初回は完全に参加者でしたよね。

吉田)楽しかったです(笑)

横山)そう、それがすごいなと思ったんです。通常事務局と言ったら参加者の反応や発言をオブザーブするのに、お二人はノールックで自分たちも参加してました(笑)

菊池)日産の事務局としてはそれが普通なのですか?

吉田)いやあのときは別でした。私たちももともとオブザーブ予定だったが、やってるうちにのめりこんでしまいました。 

横山)お二人のそうしたあり方も含めて、あの安心安全な空気感を創ったのだと思います。

2年目はコロナ禍でオンライン。駐在先の海外から参加したメンバーも迎え、互いのリーダーシップについて深い対話に

菊池)参加したメンバーの変化は感じますか?

吉田)わかりやすい変化は、スキトクイダイジが浸透していることですかね。それまで日産の人財育成はどう弱みを強化するか、課題克服に重点を置いていました。

いろんな人がアンケートにも書いていたのですが、自分のスキやトクイを伸ばしてもいいと思えるようになった、と。私自身の実感としても、スキトクイダイジというキーワードが浸透しているなと感じます。

今後の展望

Lead the Self から Lead the People へ 既存の事業を変える存在へと育てたい

横山)今後の展望を聞かせてください。

吉田様)Lead the Selfは浸透してきていると感じます。次はLead the People。周りへの影響力をどこまで出すか、周りからどうみられているか、周囲にどんなインパクトをもたらし続けるか、といった視点をもっと伸ばさなきゃいけないと思っています。

自分のパフォーマンスだけ出してたらいいわけじゃない、それがリーダーだと。Lead the Selfの先にPeopleがあるんだよと伝えていきたいです。

横山)どんな期待がありますか。 

吉田様)メンバーへの期待としては、既存の事業だけじゃなくて新しい事業を創り出すことです。既存事業をどう変えていくか、をメンバーが推進していこうという意識して、活動を始めてもらうことを期待したいです。

また、Rootsをきっかけとして始まった人としての繋がりや、コミュニティ活動はまだ一部にとどまっています。それ以外のメンバーも入ってきてくれるのを期待したいです。Rootsを通じてそんな人を増やしたいです。 

People & Collaborative Leadership

本木様)吉田の話に補足をすると、日産は今、「People & Collaborative Leadership」を全社全従業員に求めると打ち出し始めています。

ひとりひとりに①人を育成する心、②助け合い協業する精神、③実直で誠実な影響力を発信するリーダーシップを求めたいのだと発信しています。

横山)リーダーシップを全社員に呼び掛けているのですね。

本木様)この点をどう解釈するかと言えば、全社員にリーダーシップが求められるのだから、リーダー候補の人財はさらに高いレベルでそれらを行動に移さねばならない、ということです。この部分を伸ばすには、自分は客観的に周囲からどう見えているか、とう内省力が欠かせません。Howの部分、テクニカルな部分はお二人ともぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。

横山)もちろんです。ありがとうございます。

心理的安全性を具現化するオアシスのような存在

菊池)最後に、お二人からみて、横山と小野寺さんの二人組はどんな印象でしたか?

吉田様)ありのままでいいし、それがいいんだよ、という空気をつくれる人たちだと感じます。それはほんとにみんなに伝わっていますね。

本木様)二人はオアシスのような存在ですね(笑)。時にドライでクールな弊社のリーダー人財が常に人前では油断をや隙を見せず、優秀に見せなきゃ!と構えがちなはずが、心理的安全性を具現化していただけるおふたりのおかげで笑顔やゆるさを引き出してくださっています。

横山)嬉しいです。参加された皆さんと吉田さん、本木さんとの関係性のなかで、その空気が創れているんだと思います。 

小野寺)ほんとに。かなぶん(※横山のこと)なんて普段怖がられてますからね。わたしもですけど(笑) 

横山)間違いないですね(笑)みなさま、本日は本当にありがとうございました。

担当からの声
社会の、そして組織の転換期に、自社はまず何を変えるべきか。

会社の目指す未来に生産的・合理的に導く優秀なリーダーから、自分自身のありたい姿をもとに未来をつくるリーダーへと、リーダー像を転換した日産自動車のこの取り組みは、多くの課題を抱える組織にとってヒントになるのではないでしょうか。

一度つけた色を抜き、個々の色を取り戻す。スーパーサラリーマンの鎧を脱ぎ、自分の言葉で未来を語り、リーダー同士が深く繋がることの出発点は「安心安全な場」を創ることでした。

世界で戦う経営人材輩出に向けた挑戦に、これからも全力でお力添えができたらと思います。
一覧に戻る
実績-資料DL