▼インタビューさせていただいた皆様
奥田篤様
エネルギーソリューション本部 ソリューション技術部 業務用ソリューションG マネージャー
人事部採用チームにてイノベーター採用の推進に携わったのち、2020年に新事業・サービス開発をミッションとしてエネルギーソリューション本部に着任。東京ガスの未来に対するプライドと人や組織への深い愛情をもってミッションにあたる。「Hatch!」導入の責任者。
小野山直樹様
エネルギーソリューション本部 ソリューション技術部 業務用ソリューションG 課長
2019年からエネルギーソリューション本部のデジタルチームへ参画。Web/デジタル領域の新サービス「お仕事サポート」の立役者であり、「Hatch!」では事務局としてメンバーの実践を支えながら、自身も現場に出て課題に向き合う探究肌のチームリーダー。
相川安佐美様
エネルギーソリューション本部 ソリューション技術部 業務用ソリューションG
元研究所勤務。2020年からエネルギーソリューション本部ソリューション技術部に参画する、現在4年目のメンバー。「Hatch!」参加者の一人であり、プログラム終了後も学びを活かして新事業開発に日々奮闘。若手を引っ張るリーダー的存在。
※所属/肩書はインタビュー当時のものです(2022年3月)
菊池:今回、「新事業創造プロジェクトHatch!(以下、「Hatch!」)」の導入にあたって、東京ガスさんの背景にあったのは新規事業開発への課題感でしたね。
奥田様:そうですね。「持続可能な社会づくり」という大きな時代の流れがあって、我々は新規事業を開発しなくてはならない状況になりました。東京ガスのメインビジネスである「天然ガス供給」の過程では、どうしてもCO²が発生します。しかしSDGsの採択以降、世界は一気に脱炭素へ。もちろん我々も企業として脱炭素に取り組まなければならない。「さあ、どうする?」と全員で考えなくてはならなくなったのです。さらにエネルギー自由化により、ただ「エネルギーを供給する」だけではなく、「新たな価値をお客様に届ける」ことが必要になった。我々にとって新規事業開発は必要不可欠でした。
菊池:その中で奥田さんたちの所属する「エネルギーソリューション本部ソリューション技術部」も、新事業創造を担うようになったというわけですね。
奥田様:我々のメイン業務は、食産業を中心としたお客様に向けての厨房機器の提供やエネルギー供給でした。それに加えて近年は、飲食店の皆様の困り事を聞き出して解決する、ソリューション提供にも取り組んでいます。最近では「安心・安全な店作り」や「集客の仕組み作り」なども手掛けようとしています。
小野山様:私たちのビジネスモデルは、ガス関連機器を開発して販売すれば自動的にガスも売れ、リターンを得られるというものでした。しかし自由化になると、そう簡単に話は運びません。ガス機器が売れても、東京ガスのガスが売れるとは限らない。だからこそ、「機器&ガス販売以外のところで利益を得られるビジネスモデルを作ろう」という発想に切り替えたんです。「そのサービスは利益を生むのか」「お客様と継続的な関係構築できるのか」。それをふまえて新たなサービスを生み出そうとしています。
菊池:長年、既存事業に従事していた方々が突然「新規事業を」と言われて、みなさん、どんな気持ちでいたのでしょうか。
奥田様:メインミッションが新事業創造となり「どうすればいいんだろう」と正直、感じましたね(苦笑)。やるべきだということは腹落ちしているんですが、正解が見えない。方向性を探る所からのスタートに戸惑いを覚えました。
小野山様:「どうやれば成功できるのか」という問いに対して、なかなか「これだ」という答えが見つからない。それが新事業開発の難しいところですよね。
相川様:私は研究所勤務だったこともあり、元々新しいことを考えるのが好きだったので、「よしよし!きたきた!」と、楽しみではありました(笑)。でも、実際やってみると壁だらけで「どうしよう」と……。今まで「道筋がある中で、何を提供するか」を考えていた私たちが、サービスの提供の仕方から、お客様にとってのメリット、さらに収益性まで含めたビジネスモデル全体を考えることの難しさを感じました。
菊池:「Hatch!」が始まる前も、模索しながら様々な挑戦をされてきたそうですね。
相川様:そうなんです。「飲食店の皆様に、新しいサービスを考えましょう」というミッションはあるものの、当初は何から手をつけたらいいのか分かりませんでした。だからこそ、これまでやってきたように、検討ステップを理解しないまま「Seeds(できること)起点」で進めようとしたんです。例えば技術動向やトレンドを調べ、「これは面白いかも」「役に立つかも」という仮説を立ててソリューション案を作り、お客様に持っていく。ただ、方向性にまとまりがないので、「こんなこともできますよ」と提案しても、お客様は渋い顔をされていて。「東京ガスって何をやりたいの?」と言われてしまったこともありました……。
奥田様:長年、取り組んできたビジネスモデルがある中で、突然「新規事業の開発を!」と言われても、すぐに回答を出せるわけではないんですよね。これまでも、新サービスを考案するための研修なども実施してきましたが、なかなか上手くいかず……。実践には活かせていませんでした。もっと実践的に学べる方法はないかと感じていたところ、「新事業創造プロジェクトHatch!」に出会ったんです。
菊池:人事部の頃から、奥田さんは組織的な部分にも課題感を感じていらっしゃいましたね。
奥田様:そうですね。以前から「やらされている感」からは、絶対に新しいものは生まれないと思っていました。皆が自分で課題を見つけて、主体的に動く現場にこそ新たなものは生まれます。一方で、この部署はしっかりと技術を積み上げて成長する文化があるので、そこに違う風を吹かせられれば、何かが変わるかもしれないとも思っていました。菊池さんの言う「内発的動機づけ」ですね。メンバーの内面から出てくるパワーに少しずつ火をつけていけば、新しい何かが生まれるんじゃないか、と思ったのが導入のきっかけです。
もともと明るくて楽しい職場にしたいという思いもあったんですよ。とはいえ、やはり内部だけで変化を起こすことに限界を感じていたので、あえて外部の、もっと広い知見を持っている人からの冷静な視点を入れることによって、効率的に変化を起こせないかと考えました。
菊池:事務局としても研修を支えてくださった小野山さんは、このプログラムにどんな期待を持たれていましたか?
小野山様:導入を検討していた頃、私はまだこの部署に異動してきたばかりでした。正直なところ「やり方が分からない」「ヒントもない」という状態。そんな中で、日々新たなアイデアを生み出しているベンチャー企業の人と話す機会があって、そこで、新事業を起こしている人も東京ガスの人とそんなに変わらないんだな、と感じたんです。アイデアがどんどん出てくる人は、全く違う性質の人なわけではない。足りないのは、能力ではなく「実践の数」だと気づいて。そこに、「Hatch!」実践プロジェクトの話を聞き、「これはヒントになりうる」と感じました。
菊池:奥田さんは導入に至るまで、社内調整にも尽力してくださいました。
奥田様:そうですね(笑)。新規事業開発のためにはスキルを身に着けることも、内発的動機を高めることも両方大事です。だからこそ、これまで私たちはスキルUPのためのアプローチをたくさんしてきました。でも、なかなか効果を感じられなかった。だからこそ、スキルを身に着けることも内部動機づけも両方できる「Hatch!」の導入で、何とか効果を出したいと思っていました。こうした研修の導入は初の試みだったので、確かに社内では「動機づけに意味があるのか」という意見もあり、100%の理解を得られたわけではありません。でも私自身は、いずれにしても人材育成にはつながるはずと信じて、「トライします」と言い続けてきたんです。それでも導入までに1年かかりましたけどね(苦笑)。
菊池:プログラムの中で印象的だったことはありますか?
相川様:特に印象に残っているのは、Willを明確にすることで、ソリューション案がブレなくなるんだと発見したことですね。これまで作ってきた提案のバラバラ感はそれが原因だったのか、と気づきました。それぞれが自分を客観的に捉えていれば、揺るがない軸を持って考えることができたのかな、と。
奥田様:「Hatch!」を受けてから、相川さんは「課題の大切さ」についてよく言及するようになりましたよね。本来は課題があってソリューションがあるのですが、うちの人はすぐにソリューションを考えがちなんです。でも最近は「Hatch!」の中で学んだ課題の種、「不」(不満や不足、不幸、不均衡など、世の中にある困りごとのこと)について、チームで議論するようになって。ソリューションを考える時のアプローチ方法が変化したなと感じています。
相川様:そうですね。課題の質を上げることに重きを置くようになりました。それによって、チーム全体で共通認識を持つことができ、目指すべき方向もだんだん定まってきているように感じています。定期的に議論したり、言葉をたくさん交わしたりすることで、「これ、課題磨けてないよね」とか、「お客さんの生の声ってこうだったけど、これって本質的な課題じゃないよね」というように、みんなの認識が合ってくるんですよね。
横山:ちなみに相川さんのWillはすぐに出てきましたか?
相川様:すぐではなかったですね。研修を受けながら本当のWillに気づいていった感じです。ペアワークの時に、メンバーが「相川さんってこうですね」と客観的に言ってくれたんです。その時に「ああ、そういう要素があるから、こういうことが好きなんだ」と自分でもしっくりきて。あの気づきはとても良かったですね。
横山:そんな素晴らしい気づきがあったのですね。相川さんには対話の中で「どんな要素がある」と言われたのですか。
相川様:「家族をすごく大事にしているのですね」と言われました。自分で認識していなかったので驚きました。いつの間にか自分の軸の1つに「家族」があったんだと改めて気づき、「自分を大事にしながらも、家族との大切な時間を過ごしたい」というWillがHatch!最終回でプレゼンテーションした事業プランに繋がっています。だから、発見してくれたメンバーに感謝ですね。真剣に私の話を聞いてくれているんだなと思い、ちょっと感動しました。
横山:なるほど。小野山さんと奥田さんは、何か印象に残っている場面はありましたか? 今回、事務局としてもサポートしてくださった小野山さんは、外部の人に話を聞きに行く場面にも同行するなど、受講生にかなり寄り添ってくださったと感じました。
小野山様:私自身このプログラムのメリットの1つは、メンバー全員が外の人とたくさん話す「実践」ができることだと感じていました。だからこそ、できるだけフランクな形で話を聞けるように、交流のある営業パーソンを紹介したり、場づくりを手伝ったり、同行して話を聞いたり、というサポートをしてきたつもりです。
奥田様:小野山さんも私も、自分が正解を持っていると思っていないんですよ。私たちの役割はメンバーが自分で考え、悩んだり、お客さんの声を聞けたりする場を作ることで、それが一番の早道なのかな、とお互い考えていたように思います。そのうえで、なるべく口を出さないようにというのは、徹底していたのかもしれないですね。すごく言いたくなりましたもん、「こうすれば、もっと早いじゃないか」とか。でも、ぐっと堪えました(笑)。
私としては、そうやって見守る中で、「みんなが新規事業にどっぷり浸かって悩んでいる姿」がすごくいいなと感じました。皆、頭を抱えて本気で悩んだ。それによって、変わっていったなと思いました。
菊池:研修後は、自身やチームの変化や成長を感じますか?
相川様:チームの全員が自分ごととして課題を考えるようになりました。研修の中で苦しくなるくらい本気で考え、壁にぶち当たって、その中で得た実践知を体に染み込ませることができたと感じています。私自身としては、この研修によって、Seeds起点でものを考える癖から脱却できました。それから、生の声を拾いに行く勇気を持てたことで、自ら課題を拾いに行き、その課題に向き合えるようになったことも大きな変化ですね。また、今回の研修は菊池さんと横山さんが文字通り私たちに伴走し、無理なく明るい方向に導いてくれたことが本当に印象的でした。なかなかそういう伴走はできないなと感じたので、中堅社員として、今後はお二人のようなコーチングや指導をしていきたいと思えたことも成長の1つです。
菊池:そんな風に感じてくださって、本当にありがたいです。奥田さんと小野山さんから見て、チームの成長を感じたポイントはありましたか?
小野山様:研修で繰り返し、チームメンバーとフランクなコミュニケーションを取ることを実践してきたので、ブレストのハードルが下がった印象はあります。相川さんのプロジェクトを覗いてみると、「ブレストを気軽にやりましょう」という雰囲気がメンバーにあって、とても良い変化だと感じました。また、研修内で「生の声から課題を拾い、ソリューション案をプレゼンして先方の反応を感じる」ところまで実践し、それぞれが手ごたえを感じられた点は、メンバーの自信につながったのではと思っています。
奥田様:確かに、メンバーのちょっとした発言の主語が「自分」になり、意思を感じられるようになりましたね。さらに、共通言語ができたからか、どのチームも元気になっているように感じます。議論が活発に行われて、とても雰囲気が良くて活気がある。それもまた、研修を経て2人のチームリーダーの働きかけやメンバーのちょっとした意識が変化した結果なのかな、と思っています。
菊池:貴重なお話をありがとうございます。では最後に、これからの課題や展望を聞かせてください。
相川様:「Hatch!」で体に染み込んだスキルを生かして、課題の質を磨き、そこから解決策を考えることです。そして、ゆくゆくはそれを事業に結びつけたいですね。一方で今後の課題は、解決策の質を上げていくこと。段階的にゴールに結びつけられるよう、課題だけでなく解決策の質向上も強化していきたいです。
小野山様:最終ゴールは新規事業を生み出すことなので、まずそれは実現させたいですね。ハードルは高いのですが、夢を信じて、新規事業開発をさらに推し進めていきたいと思っています。
奥田様:私の立場としてやるべきことは、メンバーの変化を支えるために、新規事業の大切さや、若手を信じる文化を社内に広めていくことですね。よく「センミツ」(新規事業は千のうち三つしか成功しないことを表す言葉)と言いますけど、失敗する事例もたくさん打ち上げていきたいと思います。
小野山様:そういえば以前、とあるセミナーで「AIは正しいことを効率的にできるが、間違ったことができない。これからは、間違ったことをすることが人間にとって重要だ」と言っていたんです。それを聞いて、私自身、「世の中をよくするために、間違っても挑戦し続ける人間」でありたいと感じました。我々に必要なものはこれですよね。
奥田様:まさに。我々ガス会社は失敗が許されずに失敗を怖がってしまう風土がありますが、新規事業開発においてはたくさん挑戦してたくさん失敗していきたいですね。