未来創造企業を掲げ、化学品、機能性材料、農業化学品、ヘルスケアの4つの事業領域でさまざまな挑戦と革新を続ける日産化学様。今回、ダイバーシティビジョンの実現に向けて、女性活躍推進をテーマとした女性社員向けリーダーシップ研修および上司向けフォローアップ研修を実施した経緯や参加者の変化・変容についてお話を伺いました。
<お話をお伺いした方>
日産化学株式会社 人事部 課長 梁川 真吾様
日産化学株式会社 人事部 梅澤 真吾様
日産化学株式会社 人事部 村梶 春香様
横山(以下、横):本日は、貴重なお時間ありがとうございます。今回、女性社員向けリーダーシップ研修(通称:Hatch! & Mate)実施の背景や経緯についてお伺いさせてください。
梁川(以下、梁):2021年4月、当社では、ダイバーシティビジョンおよびダイバーシティステイトメントを掲げました。ビジョンの実現、ステイトメントの実践に向けて、次世代人材の育成や女性活躍推進は、欠かせないテーマです。
梅澤(以下、梅):具体的には、自社の採用において総合職の女性比率目標などを設定し、採用活動を強化してきました。全国にある拠点や各職場に女性社員が増えたことで「職場にロールモデルがいない」、「ライフイベントを迎えて、仕事と家庭の両立に悩んでいる」といった声が多く聞かれるようになり、より現場の問題や課題意識に寄り添った人事施策や制度運用をしていきたいと考えていました。
横:いい人材を採用したからと言って、それだけでうまく行くわけではない、ということを目の当たりにされてきたのですね。
村梶(以下、村):まさに、社員の悩みや将来への不安を聞く中で、皆に前向きに働いてもらいたい、この先も日産化学でキャリアを築いていきたいと思ってもらえるような機会や仕組みを考えたいと、御社にもご相談をさせていただきました。
菊池(以下、菊):施策を考える上で、どのようなことを考えられていたのでしょうか。
村:私自身は、これまで女性社員の数が少ない分、さまざまな機会や経験を与えてきてもらったという感覚、実感がありました。それゆえに、女性社員だけを集めた施策という方法が本当に女性活躍推進につながるものなのか、腑に落ちず、外部のセミナーに参加したり、他社の方々から情報収集を重ねていました。
梅:階層別研修や選抜型のリーダーシップ研修などを担当している身からすると、特定のメンバーを集めることに価値はあると思っていたので、女性社員だけを集めることに同じ部署の村梶が不安を持っていたことには、驚きました。
村:葛藤を経て、「女性社員だけを集めたリーダーシップ研修を実施する」とふん切りがついたのは、管理職手前の階級で女性社員が滞留しているという客観的な数字が明らかになり、10名ほどの女性社員の方々にインタビューをさせていただいた時です。ライフイベントなどの影響を強く受ける年代ではありますが、彼女たちが抱える問題や課題を聞いて、これは放っておいてはいけないと思いました。
横:村梶さんにお話をお伺いし、過渡期であるゆえに、女性社員が長くキャリアを築こうとすれば、個々人のライフキャリアと組織・人事システムの間で上手くいかないこともある。ただ、その環境や関係性を変えられないと諦めるのではなく、自ら殻を破って働きかけることで状況を好転させるチェンジリーダーを育むこと、をコンセプトとして据えたことをよく覚えています。
横:今回、15名の女性社員と彼女たちを支える上司、経営陣のみなさんと 4ヶ月に渡って「Hatch! & Mate」に取り組んできました。今回は、部署別の手挙げ形式での実施となりましたが、参加された方々に対して感じられていたことはありますか。
梅:欲を言えば、もう少し多くの方に参加をして欲しかったですが、組織属性など偏りがなく、バランスが取れていて、一人ひとりとじっくり密に話ができるという意味では、最適な人数感だったと思います。
梁:何かしらの課題意識を持っている方が自ら手を上げて参加をしてくださった印象を持ちました。なかでも、ハードなことで定評のある昇格研修の修了直後にエントリーしてくださった方が複数いたのには驚きました。
横:Day1で参加動機をお伺いした際、「初めて日産化学で女性社員向けの研修が実施されると聞いて、次年度から自分は対象外となるので、参加しておかねばと思った」とおっしゃられていましたよね。並々ならぬ想いを感じていました。
村:はい。その他にも事前の説明会や講師紹介の動画をきっかけに参加を決めたという方もいます。自身のキャリアについて何かしらのモヤモヤを抱えていて、参加してみようと思ってくださった方も多かったようです。
梅:上司からの声掛けで参加を決めたという方もいました。上司がかけてくれた期待に応えたい、自チームを率いる中で感じている課題を克服したいとおっしゃられていて、上司やメンバーとの絆や関係も原動力になっているのだと感じました。
菊:今回、女性社員の方々へのプログラムと並行して、上司向けのワークショップも実施しました。
梁:はい。今回の実施にあたっては、当事者である女性社員だけでなく、彼女たちを支え、育てる上司や経営層が一体感を持って施策に取り組むことが重要だと考えていました。ですから、プログラムも彼女たちだけが頑張るのではなく、上司や経営陣の方々にも一緒に取り組んでいただく。マネジメント層の意識改革の必要性や現場で彼女たちと対峙する中で抱えている彼ら自身の悩み、課題解決にもなればと全体のプログラムを設計しました。
横:本来、人材育成に男女は関係ないものの、今のステージで女性リーダーを育成するには、女性本人の意欲と上司からの働きかけが同時に必要になると考え、上司の皆さんとは「啐啄同時(そったくどうじ)」というテーマを共有しましたね。
梅:自社の女性活躍推進の現在地やリーダー育成の意義・難しさを改めて上司のみなさんと分かち合った上で、活躍したいと希望する女性社員のキャリアを後押ししていくには、上司としてどのようなあり方や関わり方が必要なのかについて、共に考える1日になりました。
村:その場で終わりではなく、彼女たちのリーダーシップを引き出すためには、どういった問いかけや対話が大切なのか、ワークショップで気づき得たことを職場に戻って実践し、積極的にサポートをしてくださっていました。
菊:環境や関係性に前向きに働きかけるチェンジリーダーを育むことを目的とした今回の「Hatch & Mate」の中で、みなさんが特に印象的だったことはありますか。
梁:私は、Day1のストレングスファインダーを題材に周囲からフィードバックをもらいながら、各人の強みやリーダーシップのあり方を言語化するパートが印象に残っています。仲間からのフィードバックを通じて、自分らしいリーダーシップのあり方に気づき、学びと実践を繰り返す中で、変化・変容を遂げようとする様は、まさに周囲に好影響を与えるチェンジリーダーそのものだったと思います。
横:ひとりひとりから発せられる緊張感ゆえとても硬い初日でしたが、梁川さんのおっしゃるように午前中のワークを終えたら、すっかり場が温まっていて。4か月を通じたその後の彼女たちの変化・変容には、何度も驚かされ、私自身が勇気づけられました。
梁:彼女たちが取り繕うことなく、助け合い、学び合える関係をつくってくださった横山さんや菊池さんのファシリテーションがあってこそです。Day2、Day4と同席した社長の八木や社外取締役も難しいテーマをポイントを抑えながらもこんなに軽やかに進行されることに感心していました。
梅:まさに。日頃、遠慮しがちなメンバーが皆の前で、真っ先に意見を言う、臆さずに話すという雰囲気が自然と出来上がっていて、これぞ心理的安全性の高い場だと感じました。
横:ありがとうございます。プログラムの中では“エッジ”と言う言葉を使いましたが、皆さんと接する中で、一人ひとりが持っているさらなる活躍の可能性を個人的・組織的なバイアスが押さえこんでしまっているように感じていました。「出すぎてはいけない」「甘えてはいけない」「楽しんではいけない」と言ったものです。それがDay3、4と回を追うごとに解放されていって、毎回主役が変わる。仲間の変容に周りがつられてまた変容していく。本当に素晴らしかったですね。
梁:予定調和にしないということも大きかったと思います。4ヶ月のプログラムの前半は、個々の内省中心、後半は日産化学において解くべき課題を考えるグループワーク中心のコンテンツでした。通常の研修であれば、後半のチーム編成は企画側がグルーピングをして、議論の流れを決めて、としますが、今回は、どうチームを組むかも含めて自分たちで決めてもらいました。当社の研修史上でも画期的なシーンで、ヒリヒリしましたが誰一人として妥協せずに率直かつ粘り強い議論をしており、メンバーの底力を感じました。
横:周囲と協働する上で、彼女たちの苦手である「他者への遠慮」や「自分自身への自信のなさ」を乗り越えるために、重要なターニングポイントでしたね。誰も置いていかずに徹底的に事実と向き合い、可能性を探究するこの15名のスピリッツが浮き彫りになった瞬間でもあります。
横:最終日の成果発表会では、一人ひとりが見つけたリーダーシップ像の共有に留まらず、日産化学において解決したい課題をロジカルかつエモーショナルに3チームそれぞれの切り口で発表しました。上長である上司たちとの質疑応答を経て、八木社長から全社展開のアイデアが飛びだすなど一定のインパクトを残したと思いますが、新しく見えてきた課題はありますか。
梁:成果発表を聴講されていた上司のみなさんの考え方や価値観に揺らぎが起こっているのを感じていました。女性社員との対話を経て、ご自身たちのこれまでの考え方をアップデートされようと内省される発言や姿勢に感動をしましたし、私自身も自分の内にあるアンコンシャスバイアスに気づかされました。
村:プログラム終了後、3チームの発表資料を全社に展開をしたところ、複数名から反応やコメントがありました。人事からの研修報告や資料展開は過去にもありますが、こうした賞賛や激励のメッセージをもらうことはそう多くありません。それだけHatch! & Mate参加者のプレゼンには、人を動かすエネルギーがあったのだと感心しました。
梅:まさにチェンジリーダーですよね。
村:今後は、一部の特定の人の活動ではなく、誰が発信した事でも可能性として受容し、自分事化できる風土や循環を作っていけたらと思っています。
梁:日産化学は、理系社員が多く「データや事実を大切にする」、「技術の前では、みんな平等である」という共通の価値観が根付いています。部署や組織間の壁はなく、トップも含め対話的でフラット。当社ならではのこの強みを組織のリソースとしてD&I推進に活かしていきたいと考えています。そのためにも人事や経営の意識がおよびにくい重要な課題に対して、個々の動機から動き、提言する今回のようなリーダーが増えることが重要だと考えています。今後ともどうぞよろしくお願いします。
横・菊:はい、こちらこそ宜しくお願いします!