「両利きの経営」から学ぶVol.3 〜両利きのリーダーシップを実現する5つの原則〜
両利きのリーダーシップ
michinaru株式会社の若林です。
「変化を起こす挑戦者を創る」というミッションの元、新しい事業を生み出す人や組織づくりについて日々勉強をしています。
今回『両利きの経営』の第三弾を紹介していきます。
一つ目の記事では、成熟企業が新規事業を生み出す時に陥るサクセストラップの根本的な原因を深掘りました。
二つ目の記事では、一つ目の記事を踏まえ、既存事業とのカニバリゼーションをどのように乗り越え、新規事業を成功に導いていくのかを紹介しました。
そして三つ目となる今回の記事では、リーダーシップに着目して記事を書いてこうと思います。企業がサクセストラップに陥ることなく、両利きの経営を成功させるためには正しく組織を導く聡明なリーダーが必要です。
自己刷新を続け、状況にあったリーダーシップを身につけることがいかに重要なのかがわかる、コダックと富士フィルムの事例を紹介しようと思います。
コダックと富士フィルムの明暗を分けたリーダーシップ
コダックと富士フィルムは両社とも似たようなビジネスモデルで、フィルム販売を専業にスタートし、カメラを開発するようになった企業です。
2001年時点では基本的に互角のシェアで戦っていましたが、2000年をピークにフィルムの需要が急降下していき、変化を余儀なくされた2社はそれぞれのリーダーによって別々の道を歩き始めました。
過去の成功に捕らわれ変化を恐れたコダックの重役はあくまでも、本業である写真事業の研究開発を収益化しようと、知的所有権の保護に向けて法務キャンペーンを積極的に展開しました。
一方、富士フィルムは新任CEOの古森重隆によって、過去にとらわれず新しい道を歩き始めました。
財務的圧力の中で、古森が明確に打ち出したのが、自社の独自技術を新しい製品・サービスに応用することを重視する新たなビジョンでした。積極的に、新しい文化やマインドセットを取り入れることも推奨しました。
結果は歴然で、サクセストラップに陥り現状を正しく把握できなかったコダックは最近も株価の最安値を更新したばかりなのに対して、変化を積極的に取り入れるリーダーによって導かれた富士フィルムは年商230億ドルの企業となっており、過去15年の年間成長率は10%を超えていたようです。
両利きの経営を成功させるリーダーシップとは?
コダックと富士フィルムの事例からも、自己刷新を続け、状況に合わせたリーダーシップを持つことが企業の明暗を分けることは理解していただけたと思います。
しかし、具体的にどのようなリーダーシップを持つことで企業を両利きの組織へと導いていけるのか、わからないことも多いのではないでしょうか。
そのため今回の記事では、
両利きの組織を導くリーダーが実践している原則とは?
という問いのもと、
第一原則 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む
第二原則 どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する
第三原則 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る
第四原則 「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する
第五原則 探索事業と深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く
の五つの原則を紹介していきたいと思います。
第一原則 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む
両利きの組織を導くリーダーは、探索事業と既存事業がともに繁栄するコンテクストをもたらす戦略的抱負を提示していく必要があります。
チバビジョンでは「生涯にわたってもっと健康な目を」や、USAトゥデイでは「新聞ではなくネットワーク」などの戦略的抱負を提示しています。
この戦略的抱負が心に訴えかけるものであることが、社内のメンバーが探索のイノベーションを脅威と捉えるのではなく、機会だと理解するのを助けてくれます。
第二原則 どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する
CEOや事業ユニットのリーダーは、確立された既存事業の仕組みを変化させるのを嫌うことが多いです。しかし、両利きの組織を導くリーダーは、こうした派閥間の葛藤をうまく管理し、イノベーションを守っていく必要があります。
そのために、どこで葛藤を管理するのかを組織内で明確にする必要があります。
本書では効果的なアプローチは2つあると述べられています。
1.CEOもしくは事業ユニットのリーダーが葛藤を管理すること。
一つ目のアプローチは、CEOか事業ユニットのリーダーといった個人が探索と既存組織のリーダーを分けて管理するハブ・アンド・スポーク型。と呼ばれるものです。
既存事業と新規事業の葛藤は上級リーダー個人の手によって管理されることになります。
CEO、もしくは事業ユニットのリーダーの頭の中に、過去の成功を踏まえながら同時に探索事業を生み出すための明確な戦略があることによって可能なアプローチです。
幹部チームの組織能力を構築するために必要な時間的余裕がない時に行われてきました。
自社の過去と未来の間で妥協すべき点は個人の責任でなんとかするといった考え方です。
2.幹部チームが一緒になって葛藤を管理すること
2つ目のアプローチはチーム重視のモデルで、幹部チームは意思決定、資源配分、現在と未来の間での妥協の方法を一緒に学んでいくというものです。この選択肢では、より高次の協働や参加型のリーダーシップスタイルが育まれていきます。
個々の担当事業の損益ではなく、会社の業績に基づいて報酬が決まるようにすることが重要です。
そうすることで、派閥間の葛藤にみんなで対処できるようになり、どんな問題でもオープンに議論されるようになります。
第三原則 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る
両利きの経営に成功しているリーダーは、自分自身もしくは幹部チーム内で探索ユニットと深化ユニットの葛藤にきっちりと向き合っています。
一方、あまり成功していない幹部チームは社内の葛藤をうやむやにしたまま突き進んでいきます。そして、凝り固まった組織は変化することがなく、古い組織文化によって新規事業が潰されていきます。
リーダーは葛藤にしっかりと向き合い、探索と深化を同時に行うことの戦略的なメリットを明確にし、チームがオーナーシップを持って取り組めるように支援していく必要があります。
第一原則の提示した心に訴えかける戦略的抱負の力を借りながら、チームで対立している問題を議題に挙げ、みんなで解決を図りながら、妥協点を探るのではなく、議題を前進させる方法を探していきます。
第四原則 「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する
両利きの経営のリーダーは、深化ユニットには利益と規律を求めながら、探索ユニットには実験を推奨します。既存事業では戦略を支援しながら、新規事業ではカニバライゼーションを追求をさせていく必要があります。
この一貫して矛盾だらけのリーダー行動の両方に対して本気であることを幹部チームにはっきりと示しながら実践をしていきます。そして、その矛盾を包含し、尊重することが大切です。
また、この一貫して矛盾する行動は、全社的な戦略的抱負のおかげでまとまり、意味を成します。だから、第一原則で書いた「心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込むこと」は非常に重要です。
ビジョンを共有した組織は、異なる組織文化を持った2つのユニットでも協働して取り組むことが出来ます。
第五原則 探索事業と深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く
新規事業と既存事業では時間を別に設けて、両方のビジネスモデルについて議論し、それぞれ適切な形で評価と改善を進めていくことが大切です。
探索ユニットと深化ユニットの業績を同時に検討するとき、イノベーション事業にも既存事業と同じ利益率のルールを課している場合が多いです。しかし、探索では間違いから学んでいくので、エラーをコントールすることは求められていません。
両利きの経営を成功に導くリーダーは既存事業におけるエラーの制御や除去を目的としたマネジメントと並行して、新規事業においてはエラーを恐れずに将来において何が可能なのか、自社はどのような機会が生み出せそうかを考えていくマネジメントを行なっています。
まとめ〜『両利きの経営』を読んでみて感じたこと〜
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回の記事では
「両利きの組織を導くリーダーが実践している原則とは?」
という問いのもと、
第一原則 心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む
第二原則 どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する
第三原則 幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る
第四原則 「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する
第五原則 探索事業と深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く
の五つの原則を紹介してきました。
これら五つの原則は、矛盾する戦略やリーダーシップスタイルを用いなくてはならないため、リーダーや幹部チームにとって相当大きな圧力となります。
また、既存事業を長きにわたり導いてきた、リーダーや幹部チームは古いマインドセットから抜け出すために自己刷新を絶えず続けていかなくてはいけません。
両利きの経営に伴う葛藤を個人としても乗り越えることで始めて、組織を成功へと導くことができるのです。
この記事が社会を前に進めている皆様にとって、矛盾だらけで非常に困難な両利きの組織を導くためのヒントになっていたら嬉しいです。