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事業創り 書籍紹介

「両利きの経営」から学ぶvol.1 〜技術力や資産のある企業でも新規事業を生み出せない本当の理由〜

2021.05.29

michinaru株式会社の若林です。

「変化を起こす挑戦者を創る」というミッションの元、新しい事業を生み出す人や組織づくりについて日々勉強をしています。

今回は事業創造に関する名著『両利きの経営』を読みました。

成熟した大企業・中堅企業が新規事業を立ち上げる際に直面する、既存事業との対立をどのように乗り越えればよいかについて書かれている本です。

新規事業開発に取り組む方に役立つ知見が多く詰まっている本でしたので、3つの記事に分けて紹介していこうと思います。

「両利きの経営」 チャールズ・A. オライリー (著)

1つ目の今回の記事では、

技術力や資産のある企業なのに新規事業が生まれないのはどうしてか?

という問いを立て

1.過去の成功に合わせた組織文化が「サクセストラップ」を誘う。

2.求められる変化のスピードが早くなっている。

の2つのトピックで答えていこうと思います。

サクセストラップ(成功の罠)

既存事業で成功している企業は、技術力や資産が他の企業と比べて豊かであることが多いです。

しかし、技術力や資産を持っている企業でも、新規事業を立ち上げようとする際には過去の成功がゆえに失敗をしてしまうことが多いです。

それは、ひとたび成功をして「自分たちのやっていることは正しい」と認識すると、自分の認知している世界に疑念を持たなくなり、そこから抜け出せなくなるからです。

このように、成功している企業ほど既存事業で利益を上げるための知の深化に偏って、イノベーションが起こらなくなってしまう状況を「サクセストラップ(成功の罠)」と呼びます。

知の深化が何を意味するかは、後ほど詳しく説明させていただきます。

今回の記事ではこの「サクセストラップ」に陥ってしまう根本的な原因と時代背景を深掘っていこうと思います。

1.過去の成功に合わせた組織文化が「サクセストラップ」を誘う。

事業を成長させる際に、組織は「探索」「成長」「深化」という3つの段階を経ていくと本書では紹介されています。

事業を立ち上げた直後、「探索」段階の組織では、新しいアイデアを早く収益化するため、スピード、自発性、適応力を追求して組織を調整していきます。変化の多い環境を好む人々を雇用し、学習する組織を維持しながら、実験と機敏さを重視する文化を醸成することを目指します。

「成長」の段階になると、組織は厳格な評価と管理を行いビジネスモデルを確立し始めます。メンバーには広範な製品やサービスの提供、効率性の重視、利益率と市場シェアの評価が求められるようになります。

「成長」を経て、市場や技術が成熟すると組織は「深化」の段階へ入ります。この段階では、確立したビジネスモデルで効率的に収益を上げることを目指します。組織は中央集権的になり、予測可能性、安定性、効率性を追求していく文化が醸成されていきます。

「探索」「成長」「深化」という3つの段階

既存事業で成功を納めている企業はこの「深化」の段階で長い間、組織を調整していくことになります。

インテルやトヨタでは無駄のない組織運営を徹底することで、コストダウンや斬新型イノベーションを成功させ、収益をあげ続けていますよね。

頭に浮かぶ、既存事業で成功しているほとんどの企業が「深化」の調整を熱心に行なっているのではないでしょうか?

採用から評価制度、生産プロセスなどありとあらゆる場面で「深化」に向けた調整が行われることで、既存事業で収益を上げるのに特化した組織文化が出来上がります。

しかし、新規事業を立ち上げる際にはどうなるでしょうか?

既存事業で収益を上げるために確立した組織文化のまま、新規事業開発に取り組むと、ほとんどの場合に失敗します。

その理由は「探索」と「深化」に求められる組織能力が正反対だからです。

「探索」の段階ではスピード、自発性、適応力が求められ、「深化」の段階では予測可能性、安定性、効率性が求められます。

探索と深化の組織能力の違い

過去に成功している企業が新規事業を立ち上げるというのは、この相反する能力を一つの組織内に求めることを意味します。

だからこそ、既存事業で成功を収めている企業が新規事業を立ち上げようとすると多くの場合、過去に創り上げた組織文化から抜け出せずに「サクセストラップ」に陥ってしまいます。

2.求められる変化のスピードが早くなっている

既存事業で成功を収め、技術力や資産を持っている企業でも市場変化についていけず需要がなくなってしまう。新規事業を立ち上げようとしても失敗してしまう。

このような問題が頻繁に見られるようになった時代背景として、市場の変化のスピードが過去と比べ、格段に早くなっていることがあります。

現代に限らず、組織が市場で生き残るために変化は必要でした。

1870年にスタンダード・オイルとして発足した、大手石油会社のエクソンモービルは1999年に現在の形となりましたが、当時の姿とはすっかり様変わりしています。ただし、エクソンモービルがしてきた変化は徐々に起こり、戦略、構造、文化を同時に変える必要はありませんでした。

変化するエクソンモービル

しかし、今日の世界で組織が生き延びるためには、同社が行ってきたような漸進型の変化だけでは対応できなくなっています。それは、市場の変化のスピードが過去と比べ、格段と早くなっているからです。

アメリカでは、電気と電話の世帯普及率が50%になるまでに50年以上かかりましたが、携帯電話はわずか14年、インターネットは10年です。

市場の変化のスピードが加速にするにつれて、組織に求められる変化のスピードも加速しています。以前であれば、経営陣は数十年かけて自社を軌道修正していけば間に合いましたが、現在はそのスピードでは間に合いません。

だからこそ、既存事業に成功している組織、特に規模の大きな企業の失敗率が急上昇しているのです。

事業の「深化」に力を入れてきた企業

1つ目のトピックで書かせていただいたように、過去に成功している企業は「深化」の組織調整に力を入れて取り組んできました。

無駄なく効率を重視する人材が育ち、「深化」を求める組織文化が完成しています。

しかし、新規事業を生み出すためには「探索」を求める文化を再度創り上げなくてはいけません。

一度、完成した文化を壊しながら、新たな文化と事業を作っていくことは、かなり痛みの伴う活動になっていきます。

そして、その活動を数年で達成しなくてはいけません。

だからこそ、技術力や資産のある企業でも新規事業はそう簡単には生まれてこないのです。

『両利きの経営』を読んでみて

本書を紹介する1つ目の記事では

技術力や資産のある企業なのに新規事業が生まれないのはどうしてか?

という問いに対して

1.過去の成功に合わせた組織文化が「サクセストラップ」を誘う

2.求められる変化のスピードが早くなっている

の2つのトピックで答えました。

成功している企業こそ「サスセストラップ」に陥ってしまわぬよう、現実を冷静に見つめなおし、変化を続けなくてはいけないのですね。

そして、その変化は数年で達成することが求められる。

次回の記事ではこの知見を踏まえ、事業環境の変化が多い今日の世界で「サクセストラップ」を避けながら、既存事業と新規事業を両立する方法について書いていこうと思います。

新規事業に向き合う読者の皆さまにとって、この記事が少しでもヒントになっていれば嬉しいです。