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人創り 仕組み創り

”重たい組織”に風穴をあけるもの -人の持つバイアスを活用し挑戦行動を後押しする-

2021.07.03

強い成功体験を持つ成熟企業、声が行き届きにくい大規模企業につきものの“組織の重たさ”

この“重たさ”を乗り越えて、新たな事業を生み出す挑戦行動が起こる風土を創るために、【思いある同志が出会う非公式な場づくり】 について書きました。

今回は、そうした場づくりによって芽生えた変化の種を組織全体へと伝播させていくときに有効なアプローチについて書いてみます。

人の持つ「バイアス」を利用して飛び交う言葉を変える

組織に芽生えた変化の種。これを単なる点に終わらせず、全体へと広げていくことはできるのでしょうか。

重たい組織特有のこのフェーズの難しさを「どんな仕掛けを講じてもすぐに戻ってしまう。砂漠に水をまくような行為だ」と表現した大手企業の人事の方もいらっしゃいました。

ここで、うまく活用したいのが人が誰しも持っている「バイアス」です。

バイアスは組織の重たさの原因になっている

バイアスとは、東京大学薬学部教授の池谷裕二氏は、

「脳が効率よく働こうとした結果、副次的に生じてしまったバグ」だと説明します。

例えば、「正常性バイアス」は、自分にとって都合の悪い情報を過小評価する特性のことです。

平時には効率を上げるその特性が、災害時の逃げ遅れなどを招く要因になってしまうとして警鐘が鳴らされています。

知らないものや経験したことのないものを受け入れることに強い心理的抵抗を感じる人間の特性が、非合理的な選択をさせてしまうのです。

組織に挑戦風土を創ろうとどんなに旗がふられても、それがどんなに合理的な号令だったとしても、人の持つバイアスがまだ見ぬ変化を拒み、遅々として行動が変わらない、、そんな状況が多くの組織の重たさの原因になっています。

バイアスとは「脳が効率よく働こうとした結果、副次的に生じてしまったバグ」

注目したいのは集団にかかるバイアス

一方で、このバイアスをうまく利用して、組織全体に変化の種を広げていく方法を今日はお伝えしたいと思います。

バイアスの中でも、集団におけるバイアスを利用して、人々のマインドセットに影響を与え、挑戦行動を増やしていくアプローチです。

集団におけるバイアスとは「赤信号、みんなで渡れば怖くない」のように、ひとりだったらやらない行動を集団でいるとなんなく選択してしまう人間の特性のこと。

代表格は同調バイアスや参照点バイアスがあります。

同調バイアスは「周りがやってるから私もその行動を取ろう」という判断を、

参照点バイアスは「周りで称賛されている行動に負けないように自分も行動しよう」という判断を促進します。

ポイントは、「問題点探し」から「称賛点探し」へのシフト

ただし、こうした同調バイアスや参照点バイアスは時としてネガティブに働くこともあります。

「上司や先輩も挨拶していないから僕も挨拶しなくていいだろう」

「他事業部も達成していないんだから80%くらいの達成率でも仕方ないだろう」と挑戦行動とは反対の現状維持行動にとどまらせてしまいます。

実は、これらのバイアスをうまく使って挑戦行動を増やすためには、一つ大事なポイントがあるのです。

そのポイントとは、

集団の視点を「問題点探し」から「称賛点探し」へと変えることです。

挨拶をしていない、今期も未達、といった非挑戦行動に光を当てるのではなく、挑戦行動にスポットライトを当てて、多くの社員の基準に揺らぎをもたらすのです。

そのためには、人事や経営など、組織の仕掛け側の思考をまずは変える必要があります。

(挑戦行動が一切起きていない会社はなく、すみずみまでつぶさに見ていくとどんな会社にも一人や二人新しいもの好きで変化を起こしている人がいるものです。皆さんは、会社の片隅で起きている小さな挑戦行動をいくつ知っていますか?)

バイアスを利用し、空気を変える

ファーストリテイリングの柳井氏も、リクルートでスタディサプリを生み出した山口氏も「経営者の仕事は空気をつくること」と声を揃えます。

人事制度を刷新したり、昇格者研修を実施するだけでは空気を変えることはできません。

うちの会社では挑戦するのが当たり前

挑戦する方がかっこいい

あいつが勝手にやっちゃうなら俺も

という空気をいかに作り出すか。

人が特性として持っているバイアスをうまく利用しながら、挑戦行動を引き出し、飛び交う言葉が変わることによって重たい組織に風穴があいていく実感が得られるはずです。

こうして徐々に広がり始めた挑戦行動の組織文化への定着プロセスについてはまた別の機会にまとめてみたいと思います。

“重たい組織に風穴を開けるもの”について2回にわたって考えてきました。

いかがだったでしょうか。

皆さんは組織の重たさに、どのように向き合っていますか。

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