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「両利きの経営」から学ぶvol.2 〜既存事業とのカニバリゼーションを乗り越え新規事業を成功させる2つのポイント〜

2021.06.06

michinaru株式会社の若林です。

「変化を起こす挑戦者を創る」というミッションの元、新しい事業を生み出す人や組織づくりについて日々勉強をしています。

今回も『両利きの経営』について紹介していきます。

既存事業とのカニバリゼーションを乗り越え新規事業を成功に導くために大切なことは何か

一つ前の記事では「技術力や資産のある企業でも新規事業を生み出せない本当の理由」というテーマで、過去の成功によってイノベーションが妨げられてしまうサクセストラップについて深掘りました。

しかし、事業環境の変化が加速している現代において、新たな事業を生み出すことは成熟企業が生き残るために必要です。

過去の成功体験に縛られている企業では

「若手からアイデアは出るが、経営陣が新規事業に対して十分な運営の費用を出資をしない」

「新規事業と既存事業のカニバリゼーション(cannibalization)を懸念する声が上がり、本腰をあげて新規事業に取り組む人がいない」

といったような言葉がたくさん生まれ、新規事業を立ち上げても、利益を生み出す事業にまで成長させることはできません。

今回の記事では、そんなジレンマを乗り越えるために

既存事業とのカニバリゼーションを乗り越え新規事業を成功に導くために大切なことは何か?

という問いを立て、

1.既存事業と新規事業を担う組織をそれぞれ独立させ運営する。

2.資源を共有するための強いアイデンティティを持つ。

の2つのトピックで答えていこうと思います。

1.既存事業と新規事業を担う組織をそれぞれ独立させ運営する

本書では既存事業と新規事業それぞれに求められる組織の運営方式が全く異なると主張されています。

既存事業で利益を上げるために求められるものは、「深化」というプロセスです。効率性、コントロール、隔日制、ばらつきの縮小に力点が置かれ、絶え間ない調整をしながら改善していくことで利益を上げていきます。

一方で、新規事業に求められるものは「探索」という緩い実験的なものであり、失敗や計画の変更は許容されるものでなくてはなりません。

この相反する二つの事業を、ひとつの企業が行うためにはどうすればよいのでしょうか?

その答えの一つとして、本書では「既存事業と新規事業はそれぞれ異なる組織として仕組みや文化を創り運営すること」だと述べています。

つまり、成熟した大企業・中小企業において新規事業を成功させるためには、探索ユニット(新規事業)を大組織から分離させることが重要だということです。

本書で提示される、両利きの経営に成功している企業は、別の地にオフィスを作ったり、フロアを分けたりと新ユニットを本社組織から物理的に切り離していました。

古い構造やプロセスから解放され、新しいスタートを切る上で、こうした分離は極めて重要であったと新規事業のリーダーたちは強調しています。

このように距離を置かないと、既存事業を効率化するために培われた古いマインドセットから生じる惰性によって、新規事業の成長に必要な焦点がぼやけ、熱量の低下を招きかねないのです。

起業家的な新規事業ユニットは本社の外に出して、既存事業に邪魔されずに、新しい事業に専念できるようにする必要があります。

2.資源を共有するための強いアイデンティティを持つ

前のトピックにおいて、既存事業と新規事業は分けて運営をするべきだと述べました。しかし、それだけでは新規事業ユニットはベンチャー企業と変わりません。

成熟した企業内で行われる新規事業の立ち上げを成功に導くためには、大組織の資産や組織能力へのアクセスも必要です。

既存事業で獲得した資源や情報、技術といったものが新規事業ユニットからも十分にアクセスできることによって、ベンチャーやスピンアウトと比べて競争優位に立つことができます。

つまり、分離と統合を両立させる必要があるのです。

構造的にユニットを分離させることはシンプルですが、分離と統合のバランスを取ることは難しいです。既存事業で定着したシステムや考え方を新規事業に押し付けてしまい、探索ユニットは十分な資源を得られないまま、成熟事業に圧倒されることは多々あります。

では、分離と統合の両立はどのように行うことができるのでしょうか?

それは、共通のアイデンティティを持つことによって実現されます。

既存事業と新規事業が異なる仕組みや文化によって運営されているからこそ、共通するアイデンティティがないと、探索事業と深化事業は互いを邪魔や脅威と見なす可能性が高いです。

共通のアイデンティティがあれば、従業員は探索において重要である長期的なマインドセットを身につけやすくなります。

アマゾンのCEOであるベゾスはこのバランスを見事に捉えています。

起業化精神を持ちつつ、大きな事業を運営する鍵について聞かれたときに、企業文化の重要性を旗印にすることだとベゾスは即答しています。

ジェフ・ベゾス氏

「発明と変革をし続け、新しいことを築くというアマゾン規模の企業は、文化を持つ必要がある。(中略)ワクワクしながら実験し、実験に報いる文化で、失敗につながりそうだという事実さえも受け入れる。(中略)長期思考もその一部となっている。この四半期に何もかもに取り組まなければならないとすれば、それは定義上、たいして実験するつもりがないということだ。」

ペソスの見解では、アマゾンの共通の文化規範は、飽くなき顧客重視、実験への積極性、倹約、政治的な行動をしない、長期展望などです。

このようなアイデンティティが複数の既存事業と新規事業に共有されているから、アマゾンは完全に異なるユニットでも互いに協働することが出来るのです。

『両利きの経営』を読んでみて

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回の記事では既存事業とのカニバリゼーションを乗り越え新規事業を成功に導くために大切なことは何か?という問いを立て

1.既存事業と新規事業を担う組織をそれぞれ独立させ運営する

2.資源を共有するための強いアイデンティティを持つ

の2つのトピックで書かせていただきました。

新規事業立ち上げに携わる方と話していると、メンバーが自分のやるべきことに熱心に取り組んでいるからこそ、既存事業とのカニバリゼーションに苦しむということをよく聞きます。

本書で提案されているのは、既存事業と新規事業では別の組織体系を組み、異なる文化によって運営をされることです。獲得したい成果が異なるので集める人材や評価軸を変えていかなくてはいけません。

一方で、距離を置いて運営をするからこそアイデンティティを共有することによってはじめて、異なる組織が協働して機能することが出来る。

概念としてはとても納得のできる主張です。しかし、現場で取り組む人はそれだけでは解決出来ない問題も多く抱えていると思います。

既存事業と新規事業が対立してしまう場合には、組織形態だけでなく目の前にいるその人の考えにも目を向け対話をしていただきたいです。過去の記事で、対話について重要な点についてもまとめていますので是非読んでみてください。

過去コラム:「わかりあえなさ」から始める、新規事業を生み出す組織のつくり方

これらの記事が新規事業に取り組む皆さまが、直面している課題を解決するヒントに少しでもなっていたら嬉しいです。

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