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「わかりあえなさ」から始める、新規事業を生み出す組織のつくり方

2021.05.15

他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論

michinaru株式会社で学生インターンをしている若林です。

「変化を起こす挑戦者を創る」というミッションの元、新しい事業を生み出す人や組織づくりについて日々勉強をしています。

今週は『他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論』という本を読みました。

著者の宇田川 元一さんは経営組織論や組織論を専門とし「新たな事業を興していける組織はどのようなものか」という研究をしている方です。

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

本書は「対話(dialogue)」をテーマとし「なぜ自分の意見が相手に理解されないのか」という、多くの人が抱えているであろう悩みの原因とその解決策をわかりやすく伝えてくれています。

新規事業を興す際にも対話は避けて通れない営みです。

だからこそ、今回の記事では「新たな事業を興していける組織に必要な対話とは?」という視点で、

1.注目すべきは「技術的問題」ではなく「適応課題」

2.「適応課題」を解決する4つのプロセス

というトピックで紹介していこうと思います。

1.注目すべきは「技術的問題」ではなく「適応課題」

本書の中では、組織が抱える問題には2種類のものがあると紹介しています。

1つ目は既存の方法で解決することができる「技術的問題」と言われるものです。

例えば、職場で各々が持っているデータを共有しなくてはいけないという問題であれば、単純にクラウド上にデータを保存するサービスを利用すれば解決できます。

速く走る車をつくりたい。効率よく生産をして、消費者に安く提供したい。といったように、一つの明確な答えがある場合に多く生じるのは「技術的問題」だと思います。

2つ目は既存の方法で一方的に解決することができない「適応課題」と言われるものです。こちらは、人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題のため、単純に解決することは出来ません。

先ほど例のような状態で、クラウドサービスを導入しようと会議で提案したところ「共有した情報をもとに勝手に仕事を進められると問題の対処が面倒臭い」とか「自分の持っているデータを共有されると、自分のアドバンテージが失われてしまう」などと、反対されるケースです。

そして、そのリスクを回避できると説明しても、何か別の理由をつけてまた反対される、というようなことがあった場合、それは「適応課題」だということができます。

本書より引用 玉井 麻由子 MORNING GARDEN INC.

先人の努力のおかげで、誰もが欲しいと思うモノやコトは市場に存在しています。また、社会環境の変化が激しく、価値観の多様化が進んでいる現代では、誰もが納得する一つの明確な答えというのは生まれづらいです。

だからこそ、多くの個人や組織は「適応課題」を抱え、その解消に悩んでいるのだと思います。

では、新規事業を生み出そうとした時に生じる「適応課題」にはどのようなものがあるでしょうか?

一つ考えられるのは、新規事業開発部と既存の事業部の対立が生まれ、長期的な視点で事業が生み出せなくなってしまうという問題です。

既存事業部の人も新規事業の開発に反対しているわけではありません。

しかし、会社の現時点での収益を上げるため、日々コストを意識しながら、厳しいスケジュールと限られた予算で事業を運営している部署の人からすると、新規事業開発をやっている人の姿は、「自分たちは締め上げられているのに、赤字を垂れ流しながら面白そうなことをやっていて、いい気なものだ」と思われてしまいがちです。

わかりあえなさから生じる「適応課題」

ではこのような適応課題はなぜ生じてしまうのでしょうか?

それは、互いの「ナラティヴ」に溝があり橋が架かっていないからです。

「ナラティヴ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。ビジネスをする上では、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などと考えた方がわかりやすいかもしれません。

新規事業開発部と既存の事業部との場合で考えてみます。

ある提案に対して、既存事業部の人が「そのアイデアが本当にお客さんの役に立つとは思えませんね」と冷ややかな対応をした時に、新規事業開発部門の人は「既存事業部はイノベーション推進に非協力的な人たち」と解釈してしまうかもしれません。

確かに、新規事業開発部の人たちからすれば、せっかく提案したアイデアを否定してくる敵のような存在に感じてしまうかもしれません。

しかし、新規事業部が予算を多く使うことによって、既存の事業部はより締め付けられてしまうかもしれないですし、既存事業部での解釈の枠組みだと収益が上がらなさそうなアイデアに見えるのかもしれません。

そのような時には、自分のナラティブを一度脇に置き、他者がどのような「解釈の枠組み」を持っているのかを考える必要があります。しかし、その行為は誰もがすぐにできるものではありません。

自分の「ナラティヴ」だけで考え、相手の考えとは異なる主張をし続けてしまうからこそ「適応課題」は生じ、解決することが難しいのです。

主張が通らない時、相手は意地悪や邪魔をしているわけではありません。

お互いの合理性や価値観が違うからこそ、「わかりあえなさ」を感じてしまうのです。

次のトピックではその「適応課題」を解決する4つのプロセスを紹介していきます。

2.「適応課題」を解決する4つのプロセス

一方的な技術だけでは歯が立たない「適応課題」を解決する方法は「対話」であると、本書では主張されています。

「対話」とは互いの「ナラティヴ」の溝に向き合いながら「新しい関係性を築くこと」なのです。

では具体的にどのような「対話」をすることで、「適応課題」が解決され、新たな事業を興していける組織を生み出すことができるのか。

対話のプロセスを「溝に橋を架ける」という行為になぞらえて説明していきたいと思います。

対話のプロセス1.準備「溝に気づく」

どうしても、主張が通じない場面に直面したときには、まず自分のナラティブを脇において対話の「準備」をすることが大事です。

引いた目で周りを見渡して、わかり合えない人々との間に、大きな溝があることに気づく必要があります。

「どうしてわからないのか?」という怒りや、「相手は自分の話を聞いていないのではないか」といった不信感は生まれてしまうものです。しかし、それらの感情を一旦、脇に置いて相手ならではの事情や状況、ナラティヴに気づくことが必要です。

対話のプロセス2.観察「溝の向こうを眺める」

準備段階で、自分と相手のナラティヴには隔たりがあることに気づけたら、相手が一体どんな環境、職業倫理などの枠組みで生きているのか、そのナラティヴをよく知ろうとするのが次の段階です。

相手が感じているプレッシャーや責任、仕事上の関心など、相手や相手の周囲をじっくりと「観察」してみましょう。

「見つめる」のではなく「眺める」と書いてあることにも重要な意味があります。見つめるという言葉は、一点をじっくり見るという意味で、その点がどうして生じているのか、周りのコンテクストを見えにくくさせてしまいます。

周りのコンテクストも含めて、観察をしアプローチの手がかりを見つけていきます。

対話のプロセス3.解釈「溝を渡り橋を設計する」

観察をすることで、相手のナラティヴを把握できれば、自分の言葉が、相手にとって意味のあるものとして、受け入れられるために必要なポイントが見えてくるはずです。

次の段階では、どこにどんな橋をかけるべきかを設計します。

つまり相手のナラティヴの中に飛び移って、相手がどんな状況で仕事をしているのかをシュミレートするのです。

そこから、自分がどんな風に見えているのかを眺めることで、どこに橋を架けられるのかがハッキリしてきます。

意外な発見や道筋があるかもしれません。

対話のプロセス4.介入「溝に橋を架ける」

前のステップで、相手のことをよく調べ、考えてきましたので、最後に具体的な行動に移します。ここぞというタイミングを狙って、行動をしてみましょう。

実際に行動をすると、うまく橋が架かることもあれば、架からないこともあります。もし、うまくいっていない箇所が見つかったら、また観察のステップに戻り、じっくり相手のナラティヴを観察します。これを繰り返すうちに、徐々に頑丈な橋が架かるようになるはずです。

以上の4つのステップをすることで、「わかりあえない」人々との溝に橋がかかり、新しい関係性を構築することができるのです。

このようなプロセスでする「対話」により「新しい関係性」が構築されます。そして、現状にふさわしい関係性が構築されることによって、「適応課題」が解消され、新たな事業を興していける組織が開発されていくのではないでしょうか。

『他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論』を読んでみて

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回の記事では「新たな事業を興していける組織に必要な対話とは?」というテーマのもと、

1.注目すべきは「技術的問題」ではなく「適応課題(関係性の中で生じる問題)」

2.「適応課題」を解決する4つのプロセス

というトピックで書かせていただきました。

ビジネスの場面において、人間同士の関係性は「私とそれ」といった「道具」のように捉えられてきたと著者の宇田川さんは主張しています。

確かに「店員」や「上司」といった、役割や立場で人を捉えた方が合理的なことはたくさんあると思います。

しかし、道具的な関係のまま、新規事業という不確実性の高いものを扱ってしまうと双方の意見が食い違い、断絶が生まれやすいです。

その断絶は、相手の「ナラティブ」に思いを寄せて対話をし「新たな関係」を構築することによって乗り越えることができます。

「私とあなた」といったように、相手が代わりのきかない存在だと認識をした上での対話が、新たな事業を興していける組織には必要です。

役割や立場だけではなく、固有の存在として関係を構築し、相手を理解しようとすることで「わかりあえなさ」に対して向き合うことが出来るのですね。

そんな、大切なことを教えてくれる本でした。

この記事が読者のみなさまにとって、組織の中で感じる「わかりあえなさ」を解決する一つのきっかけになってくれればとても嬉しいです。

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